夜に眠るネムノキの魅力|性質や特徴、花言葉など
ネムノキは、独特な美しい花を咲かせる木です。糸状の細い花が集まる光景は壮観で、柳花火のような繊細さがあり、この花を咲かせたいとネムノキを育て始める人も多いようです。
今回は、独特な美しい花姿を持つネムノキの性質や特徴、花言葉や名前の由来など、詳しくご紹介していきたいと思います。それでは見ていきましょう。
ネムノキの基本情報・特徴
まずはネムノキの基本情報をご紹介します。
科・属 | マメ科・ネムノキ属 |
和名 | ネムノキ、合歓木 |
英名 | Silk tree |
学名 | Albizia julibrissin |
原産地 | 日本、朝鮮半島、中国 |
落葉高木のネムノキは、自生するものだと15mほどの高さになることもあります。
日本の環境と相性が良く、本来持っている丈夫な性質もあり、公園やお寺などでもよく植えられている樹木です。
また、マメ科の植物なので花が咲き終わった後に豆とさやを作ります。さやに比べると種子はとても小さく、冬になってもさやは開かないままで、果実全体が風に運ばれて遠くへ飛んでいきます。
夜になると眠る木
ネムノキの葉は、葉の1枚ずつを見ると鳥の羽にそっくりな形をしています。
葉柄の両側に小さな葉がいくつも連なっている、ネムノキの形状のような葉は「羽状複葉(うじょうふくよう)」と呼ばれます。
その個性的な美しい葉は、夜になると左右の小さな葉をゆっくりと閉じていき、朝になるとまた葉を広げるという不思議な性質を持っています。
これは「就眠運動」というものですが、夜間に葉から水分を蒸発させないための運動だと言われています。朝起きて夜眠る人間の生活リズムに似ていますよね。
同じマメ科であるオジギソウも葉が閉じる性質を持っており、葉に何かが触れた刺激で閉じてしまいますが、ネムノキのように日没や日の出のリズムによる就眠運動は行ないません。
オジギソウは、数秒かけて葉を閉じたあとに、ゆっくりと元の形に開いていきます。
指で触れると葉が閉じるので何度も触りたくなってしまいますが、頻繁に繰り返していると株が弱ってしまい、オジキソウが枯れる原因にもなります。
独特なネムノキの花
ネムノキの花は、梅雨から夏にかけての間に開花します。
ふわふわとした細い糸状の花びらが束ねられたようにまとまり、花火の柳を逆さにしたような繊細な花姿です。
枝先には20個ほどにもなる丸く小さいつぼみが付きますが、そのひとつひとつが少しずつ綻んでいき、糸をほぐすようにして花開きます。
特にピンク色の花が美しく、花の中心から先端に向かって広がる淡い桃と白のグラデーションが見事ですよ。
夏の夕方頃にほんのりと甘い香りを漂わせながらネムノキが咲くと、辺りに神秘的な雰囲気が生まれます。
俳句の季語「ねむの花」
ネムノキの情緒のある花の美しさは歌人をも魅了し、与謝野蕪村や松尾芭蕉、小林一茶など、歴史上に名を残す歌人がネムノキを歌に詠んだほどです。何点かご紹介しましょう。
「雨の日や まだきにくれて ねむの花」
「象潟や 雨に西施が ねぶの花」
「昼は咲き 夜は恋ひ寝る 合歓木の花 君のみ見めや戯奴さへに見よ」 |
このように、「ねむの花」は俳句における夏の季語になっています。
風にふわふわとそよぐネムノキの花はいくら眺めても飽き足りず、創作意欲を掻き立てる光景なのでしょう。
皇后陛下が皇太子妃の頃、「ねむのきの子守歌」を作詞されたことで、国民の持つネムノキのイメージが著しく上がったとも言われています。
観葉植物として人気の「エバーフレッシュ」
エバーフレッシュは別名でアカサヤネムノキ、エバーグリーンとも呼ばれている観葉植物で、夜に葉を閉じて朝に開くという就眠運動の性質を持つネムノキの品種です。
植物と共に暮らすという実感がより強まるこの性質から、近年人気が高まっている観葉植物です。
エバーフレッシュはネムノキの繊細な葉とシルエットが素敵で、柔らかい雰囲気が漂います。リラックスする寝室に置いて寝起きを共にしたり、くつろげるリビングルームなどに飾るのもおすすめですよ。
「気になる木」もネムノキの仲間
日立グループのCMソング「この木なんの木気になる木」で一躍有名となった大樹がありますよね。
あの大樹も実は、熱帯地方に自生しているネムノキの仲間です。
ハワイ州オアフ島にある木で、一般的にはモンキーポッドと呼ばれていますが、アメリカネムノキの別名もあります。
このモンキーポッドは、体内時計ではなく雨が降ると葉を閉じる性質があるため、レインツリーとも呼ばれます。
その他のネムノキの品種
ネムノキは、その独特な花を咲かせるまでには長い時間が掛かります。自分で育てて開花を見るとなると、根気よく待たなければなりません。
しかし、ネムノキの品種の中には、若木の頃から早くに開花する「一才ネム」という品種もあります。
他にも、緑色の新芽が徐々に深みのある赤紫色へ変わっていく様子を楽しめる「サマーチョコレート」という品種もあります。
「シロバナネム」という品種は寒さに弱いネムノキで、白い花を咲かせ、梅雨が明けるまでには咲き終わる品種です。
ネムノキの名前の由来
独特な葉と個性的な花を咲かせるネムノキは、とても魅力的な樹木。そして、夜になると眠る木であることから「眠りの木」と呼ばれ出しました。
その呼び名が転訛して、今の「ネムノキ」という呼び方になったのです。
地方によっては、京都府では「眠りの木(ねふりのき)」、大分・宮崎県では「眠り子(ねむりこ)」、宮城・山形県では「眠た木(ねむたぎ・ねぶたぎ)」などと呼び方が異なりますが、いずれもネムノキの特性である、眠りにまつわる名前で呼ばれています。
ネムノキ属の学名である「Albizia(アルビジア)」は、18世紀にヨーロッパに向けてネムノキを紹介したというイタリアの貴族、フィリッポ・デッリ・アルビッツィ(Filippo degli Albizzi)の名前にちなんで付けられています。
「julibrissin(ユリブシン)」は東インドの名前です。
ネムノキは、糸状の花が絹糸のようであることから、英語では「Silk tree」「Silk flower」とも呼ばれています。
羽のような葉のたくさん広がる様子から、「Parasol tree(パラソルツリー)」の別名もあります。
ネムノキは「夫婦円満のシンボル」
ネムノキは、漢字の表記では「合歓木」と書きます。
「合歓(ごうかん)」とは中国語で、喜びを共にすること、夫婦が共に眠る様子を表します。
葉柄の左右の葉が閉じて合わさる様子がぴったりと寄り添って眠るような姿であり、ネムノキは一家和合、夫婦和合などの、夫婦円満のシンボルなのです。
ネムノキの花言葉
さて、ここまではネムノキの特徴や性質、名前の由来などについてご紹介してきました。
続いては、ネムノキの持っている花言葉についてです。
個性的な樹木であるネムノキは、その姿から連想されるように少し独特な花言葉を持っています。
花言葉とその由来について、それぞれ見ていきましょう。
花言葉の由来
ネムノキには、「胸のときめき」「夢想」「安らぎ」「歓喜」「創造力」の花言葉があります。
それぞれの由来についての確証はありませんが、「夢想」「安らぎ」はネムノキの夜に眠る性質から思い浮かべられた言葉でしょう。
ネムノキは夏場に咲く花ですが、日中の暑さが和らぎ、涼しくなってきた夕暮れ時に甘い香りを漂わせながら花が咲くので、「安らぎ」の花言葉が付けられたのかもしれませんね。
「胸のときめき」や「歓喜」の花言葉は、夫婦円満のシンボルとされていることから連想されたものだと考えられています。
「創造力」の花言葉は、歌に詠まれるほどの情緒ある魅力を持つネムノキの、創造力を搔き立てるような花姿にちなんでいるのかもしれません。
薬用効果のあるネムノキ
中国に言い伝えられている逸話も、花言葉の由来のひとつだと言われています。
いつも機嫌が悪く怒ってばかりだった夫に、見かねた妻がネムノキの花を混ぜた酒を飲ませました。
すると夫は、今までの機嫌の悪さや癇癪がまるで嘘のようになくなり、機嫌良く朗らかになったそうです。夫が和やかになった家族は、それから仲良く暮らしたと言われています。 |
このような言い伝えを元に、中国医学においてはネムノキの花を不眠解消や精神安定の効果がある生薬として使っていました。
ネムノキの樹皮にはタンニンが含まれていて、強壮、鎮痛効果があり、花と同じく不眠への効果もあると考えられています。
樹皮を乾燥したものは、鎮痛、腰痛にも効果があり、打撲や捻挫には樹皮を黒焼きにしたもので作った湿布が処置として使われました。
江戸時代の本草学者も、「この木を植えると人の怒りを除き、若葉を食べると五臓を安じ、気を和らげる」というように、ネムノキにまつわる不思議な話や、薬用効果について記述しています。一説によれば、ネムノキには邪気を払う力もあるそうです。
ネムノキを育ててみよう
ネムノキを育ててみたいと思っている方には、まず鉢植えのネムノキから育てることをおすすめします。
鉢植えで育てるメリットとしては、持ち運びやすいので、場所を移動させて温度調整ができる点があること。温度管理は植物を育てるうえで重要なポイントですので、大切なネムノキを枯らしてしまうリスクを軽減できます。
育て方のコツさえ押さえれば、ネムノキは特別育てるのが難しい植物ではありません。
ここからは、ネムノキの育て方についてご紹介していきます。
置き場所
まずは置き場所ですが、ネムノキは耐寒性と耐陰性を持ち、温度変化に強い植物です。
風通しがよい、なるべく日の当たる場所で管理しましょう。
ただし、強すぎる日光や直射日光に当てすぎないよう、充分に注意してくださいね。
水やり
観葉植物の水やりは、基本として「土の表面が乾いたら、たっぷりと水をあげる」ことが大切です。
水の与え過ぎは根を腐らせて、株自体が枯れてしまう場合もありますので、あげすぎに注意しましょう。
ネムノキは少し湿り気のある環境が好きなので、土の表面がやや乾いてきたらお水を与えるようにします。
夏の間は土が早く乾き、たっぷりお水を必要としますので、春や秋よりも多い水やりで構いません。
冬場は完全に土の表面が乾ききってから水を与えてください。
日中にネムノキの葉が閉じていることがあれば、水分が不足しているかもしれません。
霧吹きなどで葉の表面に水を吹きかける「葉水(はみず)」を行ないましょう。こまめに葉水をかけて水分補給をすると、元気に育ってくれますよ。
肥料
ネムノキには、翌年の春頃から固形タイプの緩効性肥料を与えると良いでしょう。
秋頃までは、10日〜2週間に1回程度、液体タイプの肥料を与えます。
冬の間は生長がとてもゆるやかになりますから、肥料は不要です。
早ければ、1〜3年ほど経つと、ネムノキの開花を見られるかもしれません。
剪定
ネムノキは、放っておいても枝が美しく生えていくので、こまめな剪定は必要ないでしょう。一部分が伸びて樹形が崩れているなど、たまに樹形を調整する程度で問題ありません。
剪定する際には、5〜8月の時期に、伸びすぎている部分や内側へ伸びている枝を剪定しましょう。
ネムノキは生命力が強く、養分の少ない土地でも健やかに育つ品種ですが、枝や根が傷つくことにはとても弱い植物です。
傷ついた部分から新しい枝は生えず、剪定が大きなダメージになる場合もあります。
神経質に樹形を整えすぎないよう、剪定はほどほどにしておきましょう。
植え替え
先述したように、ネムノキは根や枝が傷つくことに弱い植物ですので、植え替え時は慎重に作業を行ってください。
小さな鉢に植えると、こまめな植え替えが必要になりますので、作業時には充分な注意が必要です。
種を植え付ける
庭植えなどでネムノキを種から育てたい場合には、植え付けに適しているのは2〜3月頃になります。植える場所は、風通しや水はけの良い、日がよく当たる明るい場所を選びましょう。
1年の間に1mは伸びる生長スピードなので、生長していくうえで妨げになるものがないよう、周囲の物などとは2m以上ゆとりを持った場所にしましょう。
根や枝が傷つくことが苦手な木ですので、植え替えや移植はできればしないほうがいいでしょう。
根付いた後に場所を移動させることがないよう、ゆったりとしたスペースに植えてくださいね。
ネムノキを苗から育てたい場合には、安価で販売されているポット苗もおすすめです。
病気や害虫
ネムノキは害虫や病気などに比較的強い植物です。
害虫なども発生しにくいのですが、考えられるとすればカイガラムシに注意した方が良いでしょう。
カイガラムシは、葉や枝が密集していて風通しが悪い状態の観葉植物に好んで寄生します。
枝や葉から植物の養分を吸い取ってしまうので、数匹程度であれば軽い被害で済みますが、大量に発生すると株自体の健康が脅かされます。
カイガラムシは発見次第、早いうちに駆除してしまいましょう。
幼虫の段階では殺虫剤が有効なのですが、カイガラムシは成虫になると貝殻のような固い殻に覆われてしまうので殺虫剤が浸透しません。
柔らかい歯ブラシやティッシュなどで、葉を傷つけないようやさしく擦り落としましょう。
カイガラムシの排泄物によって、すす病という二次被害も起こりますので、日頃からネムノキをこまめに観察して、異変があれば早くに気付けるようにしてくださいね。
増やし方
ネムノキは増やす方法として「挿し木」がありますが、ネムノキの性質として傷ついた枝の先からは新芽がなかなか出ないため、発芽は難しくなります。
時間は掛かってしまいますが、できれば種から育てていくのがネムノキを増やす方法としてはおすすめです。
花が咲くまでには長い時間が必要
ネムノキを種から育てて、その美しい花が咲いてくれるまでには、かなり長い時間が掛かります。
しかしその分、長年大切に育ててきたネムノキが花開く瞬間は感動もひとしおでしょう。
開花に時間が掛かるのは、ネムノキの特徴のひとつでもあります。
そんなに待ちきれない!という方は、種から育てたとしても長くて3年ほどあれば開花してくれる「一才ネム」という品種がおすすめですよ。
まとめ
今回は、神秘的な雰囲気もある、独特な性質を持つ樹木、ネムノキについてご紹介してきました。葉や花の咲き姿が個性的なネムノキは、イマジネーションを掻き立てる幻想的な印象もあります。人と同じリズムで、朝起きて夜に眠る様子は親近感を覚えますよね。
ネムノキの品種であるエバーフレッシュなどの観葉植物は育てやすく、お家で手軽にネムノキを観賞できます。
初心者でも育てやすい品種ですので、気になる方はぜひ購入してみてくださいね。