秋の花と十五夜の名月を味わう。お月見の由来や飾り方

じっとしているだけでも汗が滲み出る夏の暑さが和らぎ、空が高くなる秋がやってこようと

しています。

秋は空気が澄んでいく様子を肌で感じられ、季節の中でもいちばん過ごしやすくて好きだという方も多いのではないでしょうか。

そんな秋の風物詩でもあるのが、十五夜のお月見です。美しい月を眺めるお供として、素敵な花を飾り、秋の訪れを感じましょう。

今回は、十五夜に飾りたい花の種類や、お月見の由来、お供物の習わしなどについてご紹介していきます。

 2022年の十五夜は9月10日(土)なので、この記事を参考にお月見に向けてお花やお団子を用意してみてください。

 

そもそも十五夜とは

「十五夜」という名称は、新月から満月へと月が満ちていくまでに約15日間かけていくことが由来です。

現在のグレゴリオ暦になる前である、旧暦の8月15日を指していますが、旧暦と新暦では1ヶ月から2ヶ月ほどのずれが生じています。したがって、十五夜は毎年決まった日にちではなく、9月から10月の間のいずれかの日に訪れます。

旧暦とは月の満ち欠けを基にして数えられた暦です。毎月1日を新月として、月齢15日目である日に満月を迎えます。月の満ち欠けの周期は約29. 5日であるため、1ヵ月の日数はきっかり30日にはなりません。

 

今後の十五夜の日程(予定)
2022年 9月10日(土)
2023年 9月29日(金)
2024年 9月17日(火)
2025年 10月6日(月)
2026年 9月25日(金)

 

十五夜=中秋の名月

十五夜の時期になると、「中秋の名月」という言葉も多く耳に入ってきます。

実はこの2つは全く同じ意味を指しており、先述したように秋のちょうど真ん中頃にあたる、つまり「十五夜」であり「中秋」に見られる月という意味になります。

旧暦では7月から9月までを秋として定めていて、その中心にあたる8月15日を「中秋」と呼び、中秋の晩に見える月を「中秋の月」と呼んでいるのです。

もともとは「中秋の月」とだけ呼ばれていたのですが、十五夜にあたる秋は、空気中に含まれる水蒸気量が少なく、月が霞まずに美しく見える季節であるため名月と呼ばれるようになりました。

つまり「十五夜」と「中秋の名月」のどちらも、旧暦にあたる8月15日にお月見をすることであり同じ意味になります。

 

中国から伝わった習わし

十五夜(中秋の名月)とは、もともとは中国から伝わってきた風習です。

中国での十五夜は中華三大節にあたるひとつの大きいお祭りで、家族や親しい友人と共に月餅を食べて、美しい月を眺める習わしがありました。この望月を眺める催しが、平安時代に遣唐使によって伝えられ、観月の宴が平安貴族たちの間で行われるようになったと言われています。

この観月の宴は、やがて農村民が催していた収穫祭となり、豊作のシンボルとして十五夜にお供え物を捧げるようになっていきます。

旧暦の十五夜は芋の収穫期にあたる時期でもあったため、「芋名月」と呼んで収穫した芋を供える地域もあったそうです。貴族の催し物であった宴は、いつしか収穫した里芋やサツマイモを供えて、食物への感謝と五穀豊穣をお祈りする行事へと変化していきました。

 

地域で違うお月見団子の形

お月見といえば、月を眺めながら美味しくいただく「お月見団子」を思い浮かべますが、このお団子の形状は地域によって違いがあることをご存じでしょうか。

絵本などにも描かれる最もポピュラーな形は、まん丸の白いお団子が白い紙の上にピラミッド状に並べられている月見団子ですが、これは関東地方の月見団子なのです。

静岡地方では「へそもち」と呼ばれている、平たくしたお団子にくぼみを作った月見団子が主流です。

関西地方の月見団子はまん丸ではなく、しずく型をしていて、なんとあんこが巻かれている贅沢な仕様です。お団子の色も白だけではなく、白色、茶色、桃色が基本です。白色のお団子は皮をむいた里芋を、茶色は皮をむく前の里芋をイメージして作られており、桃色は子どもも喜んで食べてくれるようにと作られた色です。

中国や四国地方になると、串に刺さっている串だんごがポピュラーになります。

さらに沖縄地方では、塩茹でした小豆をお餅の周りに付けた「フチャギ」がポピュラーで、誰かに教えてもらわなければお月見用のお団子だとは分かりません。

ちなみに、オーソドックスな関東のまん丸な月見団子は、完全なまん丸にしてしまうと、死者の枕元に供える「枕団子」に見えて縁起が悪いことから、一見まん丸に見えても少し潰されているのが特徴です。もしご家庭で関東風の月見団子を作る際には、少しだけ潰すようにして丸めてみてくださいね。

 

お供えする月見団子の数

十五夜にお供えする月見団子の数は、十五夜には15個を供える地域がほとんどですが、5個供えるところや、1年のうちに訪れる満月の回数である12個を供える地域もあります。

関東式のお月見団子では、月が見える床の間に、三方(さんぽう)という供物や神酒などを供える台を置き、白い紙の上にお団子をピラミッド状に重ね並べていきます。

 

ススキは神様の依り代

月見団子と一緒に供えられているものとして、ススキをよく目にしますよね。

十五夜になぜススキを飾るのかという理由には諸説あるのですが、ススキは神様の依り代であり、神様が休憩する場所だとして信じられていたという説があります。他にも、十五夜を飾る頃には稲は収穫後にあたるので、稲の代用として姿形の似ているススキを飾るという説もあります。

 

美しい月の呼び名

月には満ち欠けの表情でさまざまな呼び名があり、国ごとに呼ばれ方も異なりますが、古来の日本人はうっとりするような月の名前を多く付けています。

例えば、中秋の名月の前にあたる晩は「待宵月(まつよいづき)」です。最も美しく見られる満月の日を心待ちにしている様子が伺えますね。

月齢16日目にあたる十五夜の翌晩は「十六夜月(いざよいづき)」です。「いざよい」とは、ためらいや躊躇を表す古い言葉ですが、十五夜の翌晩の月は50分ほど遅れて登ることに由来しています。

月齢17日目の月は、夕方頃に立って待っているうちに登るという「立待月(たちまちづき)」と呼び、18日目は「居待月(いまちづき)」です。前の晩よりも遅く月が登るので、立って待てずに座ってしまったのでしょうか。

19日目には「寝待月(ねまちづき)」となり、18日目よりさらに月の出が遅いことが分かります。電気がなく、夜には文字通り真っ暗になっていた昔の人々は、現代の空では見られないほどの無数の星や明るい月を眺めることが日課となり、毎晩心待ちにしていたのですね。

 

十五夜はアメリカでも収穫月にあたる

アメリカでは、1月から12月までのそれぞれの月に、異なる満月の名称があります。

厳しい降雪に見舞われる2月は「Snow Moon(スノームーン)」、シバザクラの美しい4月は「Pink Moon(ピンクムーン)」、1年のうちで夜が最も長い12月は「Cold Moon(コールドムーン)」といった具合です。

そして十五夜にあたる9月の満月は、「Harvest moon(ハーヴェストムーン)」と呼ばれています。直訳すると「収穫月」という意味で、秋の実りに感謝する日本の習わしと通じる部分を感じますね。

 

十五夜には秋の七草を飾ろう

「秋の七草」とは、「オミナエシ」「ススキ」「キキョウ」「ナデシコ」「フジバカマ」「クズ」「ハギ」の7種類を指します。

秋の訪れを感じられる観賞用の花で、春の七草のようにお粥にして食べることはありません。十五夜にはススキを飾るのが有名ですが、ススキを含めた秋らしさを感じられる七草もおすすめですよ。

秋の七草について、それぞれ詳しくご紹介します。

オミナエシ

科・属 オミナエシ科・オミナエシ属
和名 女郎花(おみなえし)、血目草(ちめぐさ)、粟花(あわばな)
英名 Golden lace, Scabious patrinia, Yellow patrinia
学名 Patrinia scabiosifolia
原産地 日本、中国、東シベリア
花言葉 「美人」「はかない恋」「親切」

紫式部が愛でた花とされるオミナエシは黄色く艶やかな姿が美しい花ですが、花の香りには好みが分かれます。腐った醤油ともいわれる独特な匂いは、受粉のためにハエを誘き寄せるために発しているものです。

そのため、オミナエシを切り花として花瓶に生けると、水からその独特な匂いが漂いますので、苦手な方はこまめに水を取り替えて匂いを防ぎましょう。

 

ススキ 

科・属 イネ科・ススキ属
和名 薄・芒(すすき)、尾花(おばな)、萱・茅(かや)
英名 Silver grass, Eulalia
学名 Miscanthus sinensis
原産地 東アジア
花言葉 「活力」「生命力」「心が通じる」

秋風にさやさやと吹かれるススキは、お月見団子と共にお供えする稲の代わりの草として使われています。

穂が風にそよぐ様子が、動物の尾のようであることから、「尾花(おばな)」とも呼ばれており、和歌などにもよく詠まれています。

儚げな印象のあるススキですが、生命力が強いことから「活力」「生命力」という力強い花言葉を持っています。オーナメンタルグラスとしてガーデナーにも人気です。

ススキはアレルゲン植物に含まれるので、イネ科系のアレルギーをお持ちの方は、アレルギー症状が出てしまうので飾らないよう気を付けてくださいね。

 

キキョウ 

科・属 キキョウ科・キキョウ属
和名 桔梗(ききょう)
英名 Balloon flower
学名 Platycodon grandiflorus
原産地 日本、中国、東アジア
花言葉 「永遠の愛」「変わらぬ愛」「気品」「誠実」

キキョウは星形の花姿から七夕に飾る花としても親しまれていますが、秋の七草のひとつに数えられているため、お月見飾りの花としてもおすすめです。丸いお月見団子の傍らに飾れば、月の近くで光る夜空の星のようにも思えます。

つぼみのうちのキキョウは、五角形にふんわりと膨らんだ紙風船のような形をしているので、あえてつぼみのうちに飾って、そのかわいらしいフォルムを楽しむのもおすすめですよ。

 

ナデシコ 

科・属 ナデシコ科・ナデシコ属
和名 撫子(なでしこ)、大和撫子(やまとなでしこ)、常夏(とこなつ)、形見草(かたみぐさ)、日暮草(ひぐれぐさ)、懐草(なつかしぐさ)
英名 Dianths, Gillyflower
学名 Dianthus superbus
原産地 アジア、ヨーロッパ、北米、アフリカ
花言葉 「無邪気」「純愛」

「ナデシコ」とは、一般的にナデシコ属の植物を総称する呼び方です。

秋の七草の由来となった和歌では、漢方名である「瞿麦(くばく)の花」として詠まれています。

「撫でて愛でたいかわいい子」という意味合いを持つ「撫子(なでしこ)」は、かわいらしい女性を例える花としてもおなじみです。

奥ゆかしさを感じられる雅な女性を例える場合には「大和撫子(やまとなでしこ)」と例えますが、これは中国からの渡来種である「唐撫子(からなでしこ)」と日本の在来種を区別するために呼ばれた名称が定着したものです。

 

フジバカマ 

科・属 キク科・ヒヨドリバナ属
和名 藤袴(ふじばかま)、蘭草(らんそう)、香草(こうそう)
英名 Thoroughwort
学名 Eupatorium japonicum, Eupatorium fortunei
原産地 東アジア
花言葉 「あの日を思い出す」「躊躇」「ためらい」「遅れ」

細長い薄紫色の花をふんわりとやさしげに広げるフジバカマは、ススキと一緒に飾ると、より風情が感じられるお花です。

フジバカマの自生種は、今では絶滅危惧種に指定されているので、流通しているほとんどのフジバカマは交配によって作られた雑種です。

「蘭草(らんそう)」や「香草(こうそう)」と呼ばれる所以は、フジバカマの葉から桜餅のような甘い芳香が漂うことが由来です。平安貴族たちは、乾燥させたフジバカマの葉を香り袋として着物に忍ばせて、芳香をまとわせていたのだと言われています。

魅惑的な香りを持っているフジバカマには、「アサギマダラ」という美しい浅葱色をした蝶が寄ってきます。

 

クズ 

科・属 マメ科・クズ属
和名 葛(くず)、裏見草(うらみそう)
英名 kudzu
学名 Pueraria lobata
原産地 日本、中国、朝鮮半島
花言葉 「芯の強さ」「快活」

クズは私たちの暮らしに役立ち、深く関わってきた植物で、山芋のような根からは「葛粉」を作って和菓子として食べ、「葛根湯」の原料として薬用にも使われてきました。また、クズの繊維からは「葛布」という丈夫な生地が作られ、長持ちする着物として仕立てられています。根から葉まで役立つクズは、庶民の味方とも呼べる頼もしい秋の七草なのです。

 

ハギ 

科・属 マメ科・ハギ属
和名 萩(はぎ)
英名 Bush clover
学名 Lespedeza
原産地 北アメリカ
花言葉 「思案」「柔軟な精神」

 

ちょっと意外ではありますが、万葉集の中で最も多く詠まれているのが、このハギです。定番とも言える梅や松などの樹木よりもハギが詠まれているからには、秋の七草に数えられるのも納得できますね。

ハギはマメ科の植物なので、スイートピーなどに似ている蝶形をした、赤紫色のかわいらしい花を咲かせます。7月頃から咲いていますが、秋に満開の見頃となり、満開にまで咲き誇ったハギの花は、枝がたわむほどにたっぷりと花を付けます。

 

十五夜に飾りたい花の種類

続いては、秋の七草以外にもぜひ飾ってみてほしい、十五夜飾りにおすすめの花たちを2種類ご紹介します。どちらも名月の晩にふさわしい、秋らしさを感じられるおしゃれな花なので、ぜひ飾り用に購入してみてくださいね。

 

ピンポンマム 

科・属 キク科・キク属(クリサンセマム属)
和名 ピンポンマム、ピンポン菊、ポンポンマム、ポンポン菊
英名 pom pom mum
学名 Chrysanthemum morifolium
原産地 オランダ
花言葉 「高貴」「真実」「君を愛す」「私を信じて」

ピンポン玉のような丸いコロンとした球状が愛らしいピンポンマムは、「ポットマム」が品種改良されたものです。西洋で誕生した品種であるため、スプレーマムなどと一緒に西洋菊として区別されます。

鮮やかな黄色いピンポンマムを飾れば、まるで夜空にも手元にも美しい月があるようではないでしょうか。

西洋で誕生したポットマムですが、和装の髪飾りとして使われることもあります。もともとは日本のキクから作られたものなので、洋風の明るく鮮やかな色合いを持ちながらも和の雰囲気にはしっくりきますよ。

 

パンパスグラス 

科・属 イネ科・シロガネヨシ属
和名 シロガネヨシ
英名 Pampas grass
学名 Cortaderia selloana
原産地 南米大陸
花言葉 「光輝」「人気」

魔女のまたがる箒のようにも見えるパンパスグラスは、ススキをもっとボリューミーにサイズアップさせたようなふさふさとした姿です。

パンパスグラスは西洋ススキやお化けススキとも呼ばれ、なんとなく風貌が似ていることからススキの仲間だと誤解されやすいのですが、ススキはイネ科のススキ属で、パンパスグラスは同じイネ科でもシロガネヨシ属の仲間なので、別の種類の植物です。

パンパスグラスのみっしりと詰まったふさふさの穂は、さりげなく飾るナチュラルインテリア向けの切り花としても人気があります。

十五夜の飾り物として楽しんだ後には、自宅のインテリアとしても飾れるのでおすすめですよ。

ほとんど水分を含まないパンパスグラスは、きれいなドライフラワーを作りやすいので、不慣れな方でも簡単にドライのパンパスグラスを作れますよ。

 

まとめ

今回は、十五夜、中秋の名月に飾って楽しみたい、秋を感じられる花をご紹介してきました。普段から花に触れる機会のない方こそ、行事のシーンでは特別感を出すためにお花を飾ってみるのがおすすめです。

いつもなら気にかけることなく、何気なく過ぎてしまう季節行事でも、一味違った印象に残る1日になりますよ。

大切なあの人にお花を送ってみませんか?