桜にはどんな種類がある?代表的な品種と特徴、桜の歴史をご紹介
古くから万葉集でも詠まれてきた桜は、日本人には最も馴染み深い花でしょう。
最近は気温も暖かく、春らしくなってきました。桜が花開くと春の訪れを感じますよね。
世界では日本=サクラのイメージも定着しているほどですが、桜にどれほどの品種があるのかをご存じでしょうか。
まずはソメイヨシノが挙げられると思いますが、サクラにはまだまだたくさんの種類があるのです。
これからたくさんの桜が花開く季節ですから、桜の種類を知っておくと、お花見がより楽しめるかもしれません。
今回は、日本の春を彩る艶やかな花、サクラの種類について詳しくご紹介していきます。
桜の歴史
桜とはバラ科サクラ属の花木の総称です。日本の国花でもある桜の木は、古くから神聖な力が宿るものとされ、御神木として祀られてきました。
宮人や貴族は「花の宴」としてお花見を行なっていましたが、現在のようなお花見の風習が馴染んだのは、8代将軍・徳川吉宗によるものだと言われているようです。
古くから日本では、花を見て歌を詠む花見の文化があり、万葉集にも桜を詠んだ歌が残されています。万葉集では梅が多く詠まれていましたが、古今和歌集になると桜の歌が上回るほど、桜の花が定着していたことが分かります。
現在の日本においてのお花見の代表格である「ソメイヨシノ」は、花が葉よりも先に咲く特性が話題になり、明治に入ってから瞬く間に繁殖したものです。
そのソメイヨシノとは反対に、古くから生きてきた桜の木は、封建時代の象徴だとされ、文明開化の名のもとにほとんどが伐採され、名花の多くが絶滅しました。
桜の品種はどのくらいあるのか
現在、日本国内には500種以上もの桜の品種があると言われていますが、正確には把握しきれていません。
この500種類も、もともとは「基本野生種」である11種から誕生したものです。
【基本野生種 11種】
基本野生種である11種は以下のものです。
- ヤマザクラ(山桜)
- オオヤマザクラ(大山桜)
- オオシマザクラ(大島桜)
- エドヒガン(江戸彼岸)
- マメザクラ(豆桜)
- カスミザクラ(霞桜)
- チョウジザクラ(丁字桜)
- タカネザクラ(高嶺桜)
- クマノザクラ(熊野桜)
- ミヤマザクラ(深山桜)
- カンヒザクラ(寒緋桜)
基本野生種だけでも多くの種類がありますね。
桜は突然変異しやすい特徴があり、挿し木などで繁殖させると新種を作りやすく、花期が重なると野生交配もよく起こります。
交配した品種は親の特徴を受け継ぎ、母本(ぼほん)である母親のほうの木の特徴が、特に強く表れるそうです。
桜の起源は日本ではない
日本のシンボルでもある桜は、もちろん原産地も日本だと思ってしまいますが、起源はネパールであったことが近年明らかになりました。
ネパールの山岳地帯において、数千万年前に最初の桜であるヤマザクラが生まれ、次第に日本にまで自生地が広がっていったようです。
弥生時代には、すでに日本へ山桜がやってきており、神聖な木として崇められていたことが分かっています。
ただし、桜のルーツを辿ればネパール発祥ではありますが、日本を代表するソメイヨシノが東京都豊島区で誕生した、日本固有種の桜であることは間違いありません。
日本で見られる桜の種類
桜の歴史が分かったところで、さっそく日本で見ることのできる代表的な品種を見ていきましょう。あなたはいくつ知っている品種があるでしょうか?
開花時期については、特に地域の記載がないものは、関東を基準として記載しておりますので、関東圏にお住いの方はお花見の参考になさってくださいね。
ソメイヨシノ(染井吉野)
開花時期:3〜4月
気象庁による桜の開花宣言でお馴染みの、桜前線の基準となる桜がソメイヨシノ(染井吉野)です。全国にある桜の名所は、8割ほどがソメイヨシノで占められているとも言われています。
ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラを親とする交配品種で、エドヒガンの葉よりも花が先に咲く特徴と、オオシマザクラの大輪の花を継いでいます。
江戸時代の末期頃に、染井村(現在の東京都豊島区付近)で発祥した品種であるため、「染井吉野」と命名されました。
日本固有の桜であるソメイヨシノは、5枚の花弁を持ち、咲き始めの頃は淡い赤に近い色をしていますが、満開に近づくにつれ白く変化していきます。満開を過ぎて花が散る頃になると、元気な若葉が芽吹き出します。満開の頃には葉はなく、花だけが付いているので、より美しい姿なのですね。
実は日本全国にあるソメイヨシノは、接ぎ木や挿し木などにより繁殖していったクローンです。繁殖に使われた原木は東京都台東区の上野恩賜公園にある1本だけです。そのため、一斉に開花するというクローンならではの特徴があります。同じ生育環境で育てば、花期が揃って一斉に咲くため、見事な桜景色を楽しめるのです。
エドヒガンザクラ(江戸彼岸桜)
開花時期:3月下旬
エドヒガンザクラ(江戸彼岸桜)は、本州・四国・九州に分布している野生種です。ちょうど春のお彼岸(3月20日あたり)に花を咲かせるのが名前の由来になっています。
エドヒガンザクラは長寿であることが特徴で、樹齢が百年以上のものも多く、中には千年を超える木も存在しており、各地で天然記念物として指定されている「一本桜」があります。
日本最古の桜の木として、山梨県・実相寺にあるエドヒガンザクラが挙げられます。この木は「山高神代桜(やまたかじんだいざくら)」と呼ばれ、樹齢は約二千年にも及びます。
この丈夫さから病気や害虫にも強く、桜の交配において母種としてよく使われており、先ほどご紹介したソメイヨシノの親でもあります。
関東圏ではソメイヨシノより10日ほど早く咲きます。
花は淡いピンク色をしており、小さくかわいらしい一重咲きです。野生種なので、花色が白などの変異種も存在しています。花が咲いた後に開く葉は楕円形をしています。
マメザクラ(豆桜)
開花時期:3月下旬〜4月上旬
マメザクラは、箱根や富士山などの標高1,500m以下にある低山地帯に咲いている自生種です。自生している土地の名称から、「ハコネザクラ(箱根桜)」「フジザクラ(富士桜)」という別名でも呼ばれます。
他の桜と比べて樹高が低く、1m以下の木でも花を咲かせます。5枚ある花弁の大きさも1~2cmほどと小ぶりで、花を俯かせるように下向きに咲かせるため、控えめで慎ましやかな印象のある品種です。
花と一緒に葉もつけるので、淡いピンク色とみずみずしい緑の葉のコントラストを楽しむこともできます。花が散った後には、食べると甘みのある黒い実ができます。
樹高が小ぶりなため、ご家庭のお庭でも育てやすい品種です。
ヤマザクラ(山桜)
開花時期:4月上旬〜中旬
野生種の中でも最もポピュラーなのが、日本固有種の「ヤマザクラ(山桜)」です。
「山の桜」と表すように、山間部辺りによく自生しています。
山に咲いている桜を総称して「山桜」と呼ぶ場合もありますが、ヤマザクラはれっきとした品種名になります。
花弁は5枚あり、花色は淡いピンクや濃いピンク、白などがあります。
開花と一緒に葉をつけ、葉が若いうちはやや赤味を帯びています。花と葉のコントラストが美しい品種です。秋になると美しい紅葉も楽しめますよ。
現在では、お花見といえばソメイヨシノが定着していますが、古来の日本でのお花見といえばヤマザクラが代表でした。古くから和歌などに詠まれていたのはヤマザクラで、古事記などにも登場しています。
幹がとても丈夫で、加工性が高いため木材としても多く利用される品種です。
オオヤマザクラ(大山桜)
開花時期:4月下旬(北海道)
オオヤマザクラは、ヤマザクラよりも花や葉が大きいことが名前の由来です。
耐寒性にすぐれている品種で、日本では北海道でよく見られるため、「エゾヤマザクラ(蝦夷山桜)」の別名もあります。アイヌ語では、「桜の樹皮を持つ木」という意味の「カリンパニ」と呼ばれています。
花は直径3〜5cmと大きめで、花色は濃いピンクです。樹高は大きいものだと20mにまで成長します。夏になると小さな黒紫色の実をつけ、鳥たちがその実を食べにきます。
北海道などの東北地方では、4月下旬からゴールデンウィーク頃に見頃を迎え、各地にオオヤマザクラの名所が存在します。
カンヒザクラ(寒緋桜)
開花時期:1月下旬〜2月下旬(沖縄)
カンヒザクラ(寒緋桜)は、中国南部から沖縄にかけて自生している桜です。
鮮やかな発色の濃いピンク色が美しく、小ぶりな花を下向きに咲かせます。花びらが散ることはなく、ツバキの花のように、萼(がく)の付いた花首ごと散っていきます。
ソメイヨシノは鹿児島県が南限であるため、沖縄でのお花見と言えば、ソメイヨシノではなくカンヒザクラになります。
地域によって呼び名が異なっていて、「ヒカンザクラ(緋寒桜)」「ガンジツザクラ(元日桜)」「サツマヒザクラ(薩摩緋桜)」「タイワンヒザクラ(台湾緋桜)」という呼び方もあり、英名では「Taiwan cherry」と呼ばれています。
一般的に多くの桜の品種は、夏に新芽を出し、秋冬に備えて休眠します。冬季の一定の寒さがあり、その後に暖かくなると、開花に向けて休眠から目覚め出すのです。
しかしカンヒザクラについては、本来暖かい気候の地域が原産地であるため、15℃ぐらいでこのメカニズムが機能し、その1カ月後には開花することもある早咲きの桜です。早いものでは、1月頃から咲き出すこともあるようです。
そのため、桜前線といえば北上していくものですが、沖縄本島においては北部からだんだんと南下していくという特徴があります。
沖縄に多くあるヒカンザクラですが、東京では「向島百花園」、神奈川県では「県立三ツ池公園」など、本州でも楽しめる場所があります。
カンザクラ(寒桜)
開花時期:3月上旬頃
「カンザクラ(寒桜)」は、先ほどご紹介したカンヒザクラと名前がよく似ていますが、異なる品種です。おそらく、カンヒザクラとヤマザクラの雑種ではないかと考えられています。イタリア人によって持ち込まれた、インドが原産の桜だと言われています。
カンザクラは開花期間が1カ月以上と長いのが特徴で、これは早く開花する花芽と、追うようにして後から開花していく花芽とがあるため、二段構えで花を咲かせるためです。
名前のとおりにまだ冬の寒さの残る時期から早々と咲き始める品種で、都内では「新宿御苑」や「上野公園」が寒桜の名所になっています。
静岡県熱海市に多く植えられ、熱海市の木として指定されており、「アタミザクラ(あたみ桜)」とも呼ばれています。
オオシマザクラ(大島桜)
開花時期:4月上旬
野生種のひとつである「オオシマザクラ(大島桜)」は一重咲きの白い大輪の花をつけ、淡い香りが魅力的な桜です。
とても丈夫で成長スピードも早く、初めにご紹介したソメイヨシノや、次にご紹介するカワヅザクラの交配親でもあります。
花や葉からとても良い香りがするのが特徴なので、桜餅を包んでいる塩漬けの葉は、オオシマザクラから作られているのです。
伊豆半島や伊豆大島によく見られる桜で、名前の由来にもなっており、本種の株は天然記念物に指定されています。
桜の観光名所では、ソメイヨシノとともに並び咲く姿を楽しむことができますよ。
カワヅザクラ(河津桜)
開花時期:3月上旬〜中旬(伊豆半島)
伊豆半島に自生するカワヅザクラ(河津桜)は、先述したオオシマザクラとカンヒザクラの交雑種です。静岡県河津市が名所であるのが名前の由来になっています。
花期が長く、早咲きのオオシマザクラの特徴を受け継いでおり、1カ月ほど花を楽しむことができます。
花は大ぶりで、カンヒザクラの特徴を継いだ濃いピンク色をしており、樹皮に光沢があるのが特徴的です。
2〜3月のカワヅザクラの季節になると、河津町では「河津桜まつり」が開催され、全国各地から訪れた観光客がお祭りやイベントを楽しんでいます。
ヤエザクラ(八重桜)
ヤエザクラ(八重桜)とは品種名ではなく、花弁が6枚以上ある「八重咲き」の桜の総称です。ソメイヨシノのように、5枚の花弁を持つものは「一重咲き」と呼びます。
ふんわりとした花びらが何枚も重なる様子は、もこもことしていて愛らしいですね。
ヤエザクラの花弁の枚数はさまざまで、70枚にも及ぶ花もあり、「菊咲き」と呼ばれるものでは花弁が100枚以上にもなる品種もあります。
ヤエザクラの有名な品種では、「一葉(イチヨウ)」「関山(カンザン)」「手毬(テマリ)」などが有名です。
ちなみに、お祝いの席などで出される、桜漬けをお湯に入れた「桜湯(さくらゆ)」に使われているのは、ヤエザクラの花を塩漬けにしたものです。
シダレザクラ(枝垂桜)
開花時期:3月下旬~4月
シダレザクラ(枝垂桜)は、京都府の府花となっており、京都のシンボルでもある品種です。
天然記念物「日本五大桜」のひとつである、樹齢1,000年以上にもなる福島県の三春滝桜や、京都府・円山公園の「祇園枝垂桜」などが有名です。
ソメイヨシノより早く咲くシダレザクラは、枝が垂れているしっとりとした佇まいが最大の魅力であり、とても雅な雰囲気の漂う桜です。
シダレザクラという呼び方には、通常は上に伸びていくエドヒガンの枝が下に垂れたものを指す場合と、柔らかな枝が下に垂れていく桜自体を総称する場合とがあります。
この枝が垂れる性質は「枝垂れ性」と呼ばれ、枝の上部分が硬くならずに、重力によって広がった枝が下に垂れていくもので、突然変異によって生じる性質です。
この性質は平安時代から見られ、「糸桜」「しだり桜」などと呼ばれ、古くから愛されてきました。濃いピンク色のシダレザクラは「ベニシダレ(紅枝垂)」と呼ばれ、八重咲きのものは「ヤエベニシダレ(八重紅枝垂)」、菊咲きのものは「キクシダレ(菊枝垂)」と呼ばれています。
枝垂れ性を持つ桜同士の交配でも、枝垂れ性にならないケースがあるという不思議な性質です。
フユザクラ(冬桜)
開花時期:11月中旬~12月中旬、4月頃
フユザクラ(冬桜)は、1年を通して春と秋の2回に渡って咲く品種です。
冬に咲くイメージから、「カンザクラ(寒桜)」と間違えやすいのですが、咲く時期は異なります。
花は一重咲きで白く、「コバザクラ(小葉桜)」の別名でも呼ばれており、名前のとおり小さな葉を持つ桜です。
群馬県・桜山公園には約7,000本の冬桜が植えられていて、「三波川の桜」として天然記念物に指定されています。
見頃を迎える11月中旬頃には、紅葉とフユザクラの開花をあわせて楽しむことができ、幻想的な風景が広がりますよ。
カスミザクラ(霞桜)
開花時期:4月下旬〜5月中旬
カスミザクラ(霞桜)も、桜の原種のひとつです。
四国・九州・北海道を主に自生しており、白い花を咲かせます。
満開を迎えると山肌が霞がかったように覆われるため、カスミザクラの名前が付けられました。
ヤマザクラと比べると開花が2週間ほど遅く、やや遅咲きの品種です。
セイヨウミザクラ(西洋実桜)
開花時期:4月中旬
セイヨウミザクラ(西洋実桜)は、「美桜」と名前に表されるとおり、サクランボの実がつく桜を指します。
品種には「ナポレオン」「紅きらり」「佐藤錦」などがあり、淡いピンク色をした愛らしい一重咲きの花を咲かせてくれます。
もともとヨーロッパ各地で栽培されていたセイヨウミザクラは、1870年頃に日本へやってきました。
他の桜も実ができますが、酸っぱすぎたり小さすぎたりして食用には不向きです。
また、すべて同じ遺伝子を持つソメイヨシノは、近交弱勢を防ぐための「自家不和合性」という性質があり、ソメイヨシノ同士で実を作ることはできません。
まとめ
今回は、日本のシンボルともいえる樹木、桜の品種についてご紹介してきました。
古くから歌に詠まれ、ご神木としても愛されてきた桜の木は、ソメイヨシノ以外にも全国各地にさまざまな種類が育っています。
地域によって品種が異なる場合もありますので、ぜひ今回の記事を参考にして、お花見の時期を楽しんでくださいね。