南天の実はお正月の縁起物|ドライフラワーにもおすすめ
たわわに実った小さな赤い実がかわいらしいナンテン。日本では、古くから正月の縁起物や飾り物として親しまれてきました。枝物として販売されているナンテンを上手に乾燥させれば、ドライフラワーとしても長く楽しめます。
実や葉に含まれる成分から、薬用としても使われている、日本人には馴染み深い植物です。
今回は、そんな縁起物のナンテンについて、特徴や名前の由来、花言葉から、基本的な育て方や増やし方などを解説していきます。丈夫な性質から、庭木や鉢植えとしても楽しまれているナンテンの魅力をたっぷりとご紹介します。
ナンテンは縁起物
赤い小さな実がたくさん付いたナンテンは、生花店では枝物としても販売されています。古くから日本人に愛されてきた植物で、「難(なん)を転(てん)じる」との語呂合わせから、実の赤色を紅白カラーに当てはめて、お正月の縁起物としても親しまれてきました。
「南天の葉を枕の下に入れて眠ると悪い夢を見ない」という言い伝えもあるそうです。
冬に赤い実を付けるナンテンは、日本の雪景色にもよく映え、絵画や俳句のモチーフとしても楽しまれてきた植物です。今や100種類以上もの園芸品種が生み出されていることに、古くから愛されてきた、日本人に馴染み深い植物であると頷けます。
ナンテンの基本情報
科・属 | メギ科ナンテン属 |
英名 | heavenly bamboo nandina |
学名 | Nadina domestica |
和名 | 南天(なんてん)、南天燭(なんてんしょく)、南天竹(なんてんちく) |
原産地 | 日本、中国、東南アジア |
園芸分類 | 庭木・花木 |
草丈・樹高 | 2~3m |
耐寒性/耐暑性 | 普通/普通 |
開花時期 | 6月~7月 |
ナンテンの特徴
ナンテンは、日本や中国などの東南アジアを原産とする常緑低木です。漢名である「南天燭(なんてんしょく)」から「南天(なんてん)」と呼ばれるようになりました。
1712年に、ドイツ人医師のエンゲルベルト・ケンペル(E.Kaempfer)から、ヨーロッパに持ち込まれました。エンゲルベルト・ケンペルは日本という国と日本独自の文化を世界で初めて紹介した「日本誌」の原著者ですが、そこで伝えられた日本の文化にナンテンがあったのです。
自生するものでは樹高が3メートルにまで育ち、夏に白い花を咲かせて、だんだんと赤く色づかせていきます。冬になると、見慣れた赤色の熟した果実をたくさん付ける植物です。
関東以西の温暖な地域に多く自生しており、野山などに自生するナンテンは燃えるような赤色の実をたくさん付けていて、赤い実と葉のコントラストが美しく群生しています。
ナンテンの名前の由来
ナンテンの名前の由来は、中国における呼び名である、漢名の「南天燭(なんてんしょく)」「南天竹(なんてんちく)」から由来して、南天(なんてん)と呼ばれるようになりました。
漢方での生薬としては、「南天実(なんてんじつ)」の名称で流通しています。
白くて小さいナンテンの花
ナンテンは、花よりも冬に色づく赤い実のほうが楽しまれていますが、6〜7月の初夏になると、黄色い花粉がちょこんと目立っている白い小花をたくさん咲かせます。
秋には葉の紅葉まで楽しめるので、冬に向けてだんだんと色づく実も相まって、鑑賞価値の高い時期です。11月頃から年を跨いだ2月頃までに実が色づき、私たちのよく知るナンテンの姿となります。
ナンテンの花言葉
ナンテンは、だんだんと実が赤く色づいていく様子が、花言葉として顕著に投影されています。その花言葉は「私の愛は増すばかり」です。愛情を感じさせる赤い実から連想される、なんともロマンチックなムード漂う花言葉ですね。他にも「福をなす」「良い家庭」といった、縁起物とされるナンテンらしい花言葉が並んでいます。
ちなみに、ナンテンには赤色の実だけではなく、白いナンテンにも花言葉が付けられています。白色の花言葉は「深すぎる愛」「募る愛」「機知に富む」です。
ナンテンの品種
ナンテンの園芸品種は100種類以上も存在しており、園芸の愛好家達に愛でられています。そんなたくさんあるナンテンの品種の中から、いくつか代表的な品種をピックアップしてみました。
オタフクナンテン(お多福南天)
ナンテンの中でもいちばん人気が高く、流通数も多いのは「オタフクナンテン(お多福南天)」です。丸みを帯びた葉が特徴で、樹高が50センチほどと扱いやすい丈なので、鉢植えや盆栽としても育てやすい品種です。
紅色や橙色に染まる紅葉期の葉の変化も美しく、樹高が低いことからグラウンドカバーとしても使われ、日本の家庭では庭木として多く植えられています。
オリヅルナンテン(折鶴南天)
紅葉の美しさにおいては「オリヅルナンテン(折鶴南天)」も魅力的です。普通のナンテンの葉よりも、さらに赤く紅葉していくので、目が醒めるような紅色を楽しめます。葉は密集して育ち、葉のよれや柄の曲がりが特徴的で折り鶴のように見えたことから、折鶴南天と名付けられました。
キンシナンテン(錦糸南天)
「キンシナンテン(錦糸南天)」は、一般的なナンテンの葉と比較すると、糸のように細い葉を持っているのが特徴なので、にしきの糸と書いて錦糸南天と名付けられました。
樹高が低く、生長スピードはのんびりとしています。園芸品種として古い歴史がある「オリヒメキンシ(織姫錦糸)」も、糸状の葉が特徴的な品種です。
シロナンテン(白南天)
赤い実を付けるナンテン以外にも、白い実を付けるナンテンもあることをご存じでしょうか。完全に真っ白というより、やや黄色みを帯びた色味ではありますが、白い実を付けるため、「シロナンテン(白南天)」もしくは「シロミナンテン(白実南天)」と呼ばれています。熟しても白っぽい果実の色はそのままで、秋口の紅葉もしない品種です。
その他にもあるナンテンの品種
その他にもナンテンの品種には、鑑賞価値の高いきれいな赤い実を付ける「チモトナンテン」や、黄色い実が熟していくにつれて、藤の花のような薄紫色へと変化していく「フジナンテン」、葉柄の組み合わさった様子が筏(いかだ)に例えられた「イカダナンテン」などがあります。
ナンテンの実や葉
日本にも馴染み深いナンテンですが、実と葉には薬効があり、薬用として現在でも使われています。続いては、ナンテンの実と葉が持つ、薬効について詳しくご紹介します。
実は咳止めになる
自生しているナンテンは、たわわに実っている赤い実を、野鳥がおいしそうにくちばしでつついている様子を見かけますよね。しかしこのおいしそうな赤い実には、ごく微量ではあるものの、ドメスチンやナンテニンなどのアルカロイド系の毒が含まれています。
人がそのまま実を食べてしまうと危険なので、誤って食べないように注意してください。もし大量に摂取してしまうと、知覚や神経麻痺などの症状を引き起こします。
有毒性がある一方で、ナンテンの実に含まれる「ナンテニン」には、咳止めの薬効もあり、生薬の「南天実」として使われてきました。咳や喉の痛みに効果がある、赤い缶に入った「南天のど飴」は、このナンテニンを使った昔ながらののど飴です。
南天実の咳中枢の興奮を抑える効果や、気道の炎症を抑える殺菌作用、のどの痛みを和らげる鎮痛作用などの効果が含まれています。独特な香りがあるので苦手な人もいると思いますが、缶の中でころころと転がる黒っぽい飴は、どこか懐かしさも感じられるレトロな味わいです。
葉には殺菌効果がある
ナンテンの葉にも、実よりもさらに微量ではありますが、アルカロイド系のナンジニンという有毒成分が含まれています。含まれているのはごく微量ではありますが、決して口にはしないようにしてください。このナンジニンには、殺菌効果や防腐効果があります。お赤飯などの食品にナンテンの葉が乗せられているのは、ナンジニンによる防腐効果が理由なのです。
「ナンテンの葉を枕の下に入れて眠ると悪い夢を見ない」という言い伝えも、葉が持っている殺菌効果から、悪いものを寄せ付けないという意味合いに繋がっているのかもしれませんね。
ナンテンはドライフラワーにして楽しめる
ナンテンなどの実ものの枝は、ドライフラワーにして長く楽しむことができます。美しい状態で乾燥させるには、新鮮なうちにすばやく乾燥させていくことがポイントです。生花店などでナンテンの枝ものを購入したら、新鮮なうちに吊り下げて乾燥させていきましょう。
複数の枝を購入した場合には、1本1本の間隔を開けて、重ならないように吊るします。吊り下げて乾燥させる方法は「ハンギング法」といって、ドライフラワー作りの基本的な乾燥方法です。
特別に用意する物もなく、環境と場所さえ準備できれば誰でもチャレンジできます。直射日光の当たらない、風通しの良い場所に吊るして、ナンテンのドライフラワー作りに挑戦してみましょう。
ナンテンの育て方
丈夫な性質を持つナンテンは、初心者でも比較的育てやすく、鉢植え以外に地植えの庭木としても育てられる植物です。植物の栽培に慣れていないうちは、もともと丈夫な性質の植物を育てることで、もしお手入れを忘れてしまったり、誤ったお世話をしたりしたときでも、植物本来の生命力でリカバリーしてくれます。
ナンテンの基本的な育て方を、初心者の方にも分かりやすくまとめてみました。初夏から花が少なくなって景色の寂しくなる冬まで楽しめる、鑑賞期間の長いナンテンを育てて、季節に応じた姿を愛でてみてはいかがでしょうか。
日当たり・置き場所
対暑性と耐寒性に優れているナンテンは温暖な気候を好みますが、地植えでも栽培できます。寒い地域では、冬越しさせやすいように鉢植えで栽培し、冬季は室内で管理しましょう。
ナンテンの栽培では、日光が当たりすぎない、午前中に日光が当たるような半日陰で育てるのがコツです。乾燥に弱い性質があるので、強い西日が当たる場所は避けましょう。日光を当てることによって、開花・実付きに影響します。
水やり
ナンテンの鉢植えでは、鉢土が乾いてから鉢底から水が流れ出るまで、たっぷりと水を与えましょう。地植えの場合は水やりは不要で、基本的には天候に任せます。夏に水切れを起こさないよう気を配りましょう。
肥料
丈夫な植物のナンテンは、肥料なしでも育っていきますが、実付きを良くしたいときは、緩効性の肥料を9月頃に与えてください。ただし、たくさん実をつけて欲しいからと過度に肥料を与えすぎるのは、かえって逆効果です。肥料の説明に記載されている適量を守って、そっと生長を後押しする程度に肥料を与えてください。
剪定
ナンテンの木は、ある程度育ってきたら剪定が必須となります。春の気温を感じられるようになってきた3〜4月頃に、枯れた枝や細い枝などを根元から剪定してください。
ナンテンは、1回実を付けた枝には1〜3年先まで実が付かないという特徴があります。ですから、現在実が付いた枝を間引いても、翌年の実付き具合には影響しません。
生命力が強いナンテンは、切り戻した枝からも新芽を出していくので、大きく育ちすぎたときも、低い幹を残して切り落として大丈夫です。花芽がない枝を、根元の近くから剪定して間引きしましょう。
植え替え
鉢植えの場合、2年に1回ほどのペースでひと回り大きな鉢への植え替えが必要です。ナンテンの植え替えは、暖かくなった春先の4月頃から、冷え込む前の9月頃までに行いましょう。養分を含んだ新しく清潔な土と、ゆとりを持ったサイズの鉢でのびのび育てることで、花や実付きがよくなります。
注意したい害虫
ナンテンにつきやすい害虫には、カイガラムシが挙げられます。カイガラムシは、成虫になると体を固い殻に覆われて、薬剤を塗布しても利かなくなってしまうので、幼虫のうちは薬剤で駆除して、成虫の場合にはやわらかいブラシなどで擦り落として駆除します。
カイガラムシなどの害虫が発生すると、害虫の排泄物から病気の二次被害が起こり得るので、見つけ次第すみやかに駆除してください。
ナンテンの種を収穫してみよう
ナンテンの実が熟していくと、小さな果肉を取り除いて、実の中から種を採取できます。採取は秋に行い、採取した時期に種まきから育て始められます。
ナンテンの種は乾燥すると発芽しないので、春に種まきを行いたい場合には、採取した種をキッチンペーパーなどを湿らせて包み、密閉できる袋に入れて冷蔵庫内で保管してください。
ナンテンの増やし方
ナンテンは、苗植えで植え付けて増やしていく以外にも、種まきや挿し木からも増やせます。実生から育てると開花までに4〜5年は掛かってしまうので、根気よく育てたいという方はチャレンジしてみてください。
種まき
ナンテンの種は、実の中から採取するか、園芸店で購入して入手しましょう。種まきの適期は4月か9月頃なので、秋に収穫したまま蒔いてしまうか、4月頃まで待って春蒔きにします。
【種まきの手順】
(1)土を入れたポットや鉢に、ナンテンの種をばらまきます。
(2)種が流れないようにそっと水をかけていきましょう。
(3)土を乾燥させないよう気を配りながら、涼しい日陰で発芽を管理します。
(4)発芽後、本葉が3~4枚くらい育つまでは、乾燥しないように水やりを行いましょう。
苗植え
ナンテンの苗植えは、4月もしくは9月頃が適期です。鉢植えでは一回り大きな鉢に、鉢底石・鉢底ネットを敷いてから土を入れて植え付けます。
地植えでは、用土を2週間くらい前に掘り起こし、あらかじめ腐葉土などを混ぜて寝かせて、植え付けの準備をしておきましょう。
挿し木
挿し木の場合には、剪定などで切り落とした枝を使うのがおすすめです。3月頃、もしくは9月下旬までに行いましょう。
【挿し木の手順】
(1)挿し穂は、1年以上経った健康な枝を15cmほど用意しましょう。
(2)挿し穂を2~3時間水に浸けてから、土に穴を掘って挿し込みます。
(3)根付くまでは日当たりと風通しの良い場所で、乾燥に注意して管理しましょう。
(4)2~3ヶ月程度でしっかり根付いてきます。
(5)株が安定してきたら、育苗ポットから鉢や庭などに植え付けを行ってください。
まとめ
今回は、お正月の縁起物としても馴染み深い、美しい赤色の実が魅力的なナンテンについて、特徴や実や葉の使われ方、育て方や増やし方などを解説してきました。
実や葉には毒を持っているものの、その毒性は上手に使うことで咳止めや殺菌効果があり、古くからのど飴などにも使われています。丈夫で育てやすいナンテンは、初心者でも簡単なお手入れで栽培できる植物です。地植えと鉢植えのどちらでも栽培可能なので、自分に合った方法で育てられます。
初夏の開花から秋の紅葉、冬には実の色づきまで楽しめる、見応えのあるナンテンを育てて、季節を感じてみてはいかがでしょうか。