胡蝶蘭を着生させて育てよう。手順や育て方、水やりなど
お祝いのシーンや贈り物として見かける機会の多い胡蝶蘭。鉢植えの姿としてお馴染みのお花ですが、胡蝶蘭は着生植物であることをご存知でしょうか。
着生タイプの植物は、生長するうえで土を必要としません。
そのため、ハンギングで吊るしたり板に着生させたりと、飾り方の自由度が高く、育てながらおしゃれなインテリアグリーンとして楽しめるのです。
胡蝶蘭を着生させて育てることで、一味違うおしゃれなインテリアとしての役割も果たしてくれますよ。
今回は、着生植物である胡蝶蘭の性質や特徴、板などに着生させる方法などについてご紹介していきます。
そもそも着生植物とは
「着生植物」と聞いても、いまいちピンと来ない方も多いはず。
まずは、そもそも着生植物がどんな植物であるかというところからご説明しましょう。
胡蝶蘭の着生生態を知ると、生命力の強さに驚き、今まで持っていた印象ががらりと変わりますよ。
着生植物の特徴
「着生植物」とは、土などの地面に根を張らずに生長していく植物のことを指します。
土を必要としないのであれば、いったいどこに根を張るのかと言いますと、岩肌や木の幹、壁などに根を絡みつかせて定着するのです。
このように、岩や木などに着生する植物全体のことを「着生植物」と呼び、その着生植物の中でもラン科の植物を「着生ラン」と呼んでいます。
今回ご紹介する胡蝶蘭も、着生ランのグループに分けられます。
着生ランの仲間には、胡蝶蘭をはじめ、カトレアやデンドロビウム、シンビジウムなどが有名です。
着生植物として代表的な種類には、砂漠の中で転がりながらも育つエアプランツとしてブームになった「チランジア」や、ビカクシダがあります。
ビカクシダは、特徴的な葉の形がコウモリの羽に似ていることから、別名「コウモリラン」とも呼ばれますが、ランのように花は咲かせず、胞子で子孫を増やす植物です。
また、名前にランと付いていますが、ビカクシダはシダの仲間となっています。
着生ランの仕組み
着生植物の特徴は分かりましたが、地面に根を張らないで、どうやって養分を得ているのか不思議に思いますよね。
次は、胡蝶蘭が自らを進化させてきた、養分を作る仕組みについてお伝えします。
胡蝶蘭の最大の特徴とも言えるのが、ぐねぐねとした根です。
地生植物が、根で株全体を支え、水や養分を吸収するように、胡蝶蘭などの着生ランの根も同じ働きをします。
地生植物の根と大きく異なるのが、乾燥に強いという点です。
また、木や岩などに安定して株を着生させなければならないため、物に絡みつく力が強いという特徴もあります。
胡蝶蘭は、太い根をたくさん伸ばしていきます。
鉢植えで育てていると、だんだん鉢から根が溢れ出てきますよね。
多くの植物は、根が土から出てしまうと、乾燥して萎びていきますが、胡蝶蘭の根はそもそも空気中に出ているのが通常の生育環境なので、乾燥することはありません。
胡蝶蘭の根には、中に細い芯が通っており、芯を囲むように多肉質の組織が包んでいます。
根の表面は白い皮に見える組織で覆われ、表面に細かい毛もびっしりと生えています。
中の芯は、株全体に水分を送るポンプのような役割を果たします。
多肉質の組織部分では水分を蓄えるタンクの役目を果たしており、表面の白い皮では空気中から水分を取り込んでいます。
胡蝶蘭の葉や花びらも肉厚にできています。
このように、厳しい環境下の中で集めた貴重な水分を、なるべく逃がさず有効に活用するシステムが備わっているのですね。
着生ラン誕生のルーツ
そもそも胡蝶蘭は、いったいなぜ土ではなく岩や木に根を張るという生態になったのでしょうか。
その理由は、着生ランの原種が地球上に誕生したところまで遡ります。
着生ランが地球上で誕生したとき、すでに地面には先に生まれていた他の植物たちで溢れ返っていました。
競争率の高い地面では、光合成に必要な日光が確保できる場所を他の植物と奪い合わなければなりませんし、虫や動物に捕食される危険性もあります。
しかし、岩肌や木の上などは、他の植物たちも少なく、食べられる危険もぐっと減るのです。
地面のように水分や養分を簡単には確保できませんが、自らを発達させることで過酷な環境下に適応させていき、その生存戦略は見事成功しました。
繁殖に成功した今では、ラン科の植物の約70%が着生タイプとなっています。
つまり、着生ランは、地球上に存在しているありとあらゆる植物たちの中でも、比較的遅く生まれた種類だと言えるでしょう。
着生ランと地生ラン
ここまでで、着生植物の中でもラン科の植物は、着生ランと呼ぶことが分かりました。
一方で、他の多くの植物のように、土に根を張って生長するラン科の植物は「地生(ちせい)ラン」と呼ばれます。
光合成をしない「腐生ラン」もある
ランのグループには、「腐生ラン」という種類もあります。
代表的なものでは、うっそうとした森林で育つ「ツチアケビ」が腐生ランです。
ツチアケビは、アケビの実に似た大きく細長い赤い実を付ける植物です。
腐生ランは、着生ランや地生ランとは大きく異なり、葉を持っていません。葉には葉緑体があり、大半の植物は葉緑体で光合成を行なって養分を生成しますが、ツチアケビは葉緑体を持っていない植物です。
葉緑体を持たない植物は、葉があっても白色や黒色をしています。
それでは、ツチアケビはどうやって、生長のための養分を確保しているのでしょうか。
ツチアケビは、菌類と共生することで栄養を得ています。
「菌従属栄養植物(きんじゅうぞくえいようしょくぶつ)」という分類になり、ナラタケ菌というキノコを取り込んで、共生するのです。
ランの仲間には多様な特性を持つものがありますが、野生の種類だけでも15,000種類以上あると言われています。
そこに品種改良などで増えた新種も加えると、もっと膨大な数になるでしょう。
胡蝶蘭を着生で楽しむ魅力
木の幹や枝などに着生している自生の胡蝶蘭は、大雨や強風などにも耐えるため、力強くしっかりと張り付いています。
絡みついている根を無理やり引き剥がそうとすると、ちぎれてしまうほどです。
この着生性質を利用して、板などに株を着生させて育てていくという楽しみ方もできますよ。
鉢植えで育てる方法とはかなり変わりますが、本来の生育環境に近いという点では、育てやすい形状です。
板やコルク、流木などに着生させれば、美しい鉢植え姿の胡蝶蘭とは全く違うワイルドさやナチュラルさを楽しめますよ。
ハンギングや壁掛けもできるので、インテリアとしての幅もだいぶ広がります。
そして、いちばんの楽しみとも言えるのが、鉢で育てるときとは違い、根が伸びていく様子が見えることでしょう。
日々根を伸ばして生長する変化が分かるのは楽しいですし、育て甲斐があります。
胡蝶蘭を着生させる方法
それではさっそく、胡蝶蘭を着生させて育てる方法をご紹介していきます。
着生させると言うと難しく聞こえますが、手順を踏めば簡単にチャレンジできます。そもそも胡蝶蘭は生命力が強いタフな植物なので、きちんと着生してくれますよ。
手順以外にも、着生作業に向いている時期や用意するものなども、詳しく説明していきます。
着生作業に適した時期
まずは胡蝶蘭を着生させるのに適している時期ですが、胡蝶蘭が生長期を迎える6月頃が適期でしょう。
6月は梅雨を迎えて湿度も高い季節なので、根から水分も取り込みやすい時期です。
着生作業は、言わば植え替え作業ということになりますが、植物の植え替えではどんなに注意をしていても根にダメージがありますし、植物への負担も大きいものです。
湿度の高い季節であればダメージを受けた分も回復しやすく、元気に着生してくれるでしょう。
着生させる素材や必要な物
次に、胡蝶蘭を実際に着生させる素材ですが、こちらはヘゴ板、コルク、流木などがおすすめです。
見栄えも良く、インテリアにも合った好みの素材を選びましょう。着生素材に根を巻き付ける水苔も必要です。
また、根がしっかりと素材に着生するまでは根を糸で支えるので、糸も用意します。
使用するものは天然繊維でできている、木綿糸やタコ糸、絹糸などがおすすめです。
ポリエチレンの糸や釣り糸、針金などは避けてください。
糸の色は何色でも構いませんが、水苔の色に近い茶色やベージュなどを選ぶと良いでしょう。
ハンギングで吊るしたい場合には、針金を用意しておきます。
着生させる手順
それではいよいよ、着生させる方法について、順にご説明していきます。
胡蝶蘭の根は丈夫ですが、とても重要な部分ですので、傷つけないよう慎重に作業してくださいね。
古い根を整理していく
まずは、ポットや鉢などから根を取り出していきます。
植え込み材などを丁寧に取り除いたら、優しく根をほぐしつつ、状態を確認していきましょう。
ぶよぶよとふやけている部分や、干からびたり萎びたりしている部分は、今のうちに切り落としておきます。
根をカットする際には、必ず火で炙って消毒したハサミを使用してください。
切り口は大変デリケートなので、雑菌などが入ると切り口から腐食して病気に繋がります。
水苔を巻きつける
不要な根をカットしてきれいになったら、着生させる素材に、根を水苔で巻き付けていきます。
胡蝶蘭を着生させたい位置に水苔を軽く敷いておきます。
上下左右均等になるよう根を広げていきながら、水苔の上に置きます。
位置が定まったら、その上から水苔を被せていきましょう。
株と水苔を糸で固定する
被せ終えたら、胡蝶蘭の株が落ちないように、水苔の上から糸を巻いていき、株を固定します。
根を傷つけない程度に、なるべく強めにぐるぐると巻いていきます。
このとき、根から水分を取り込みやすくするために、完全に水苔で覆わず、少し出しておきましょう。
ハンギングの場合は針金を通す
ハンギングで吊り下げて飾りたい場合には、株を取りつけた板などの素材に穴を開けて、針金を通しておきましょう。
針金の先をリング状にねじり、吊り下げやすく穴を作れば完成になります。
着生させた胡蝶蘭の育て方
胡蝶蘭を着生させたら、元気に育つようにしっかりお世話しましょう。
基本的な育て方は鉢植えの胡蝶蘭と大差ありませんが、微妙に違う部分もありますので、ポイントを抑えて育ててみてください。
水やり
着生させた胡蝶蘭には、株が定着するまで、春〜秋の生長期の間は毎日水やりをしましょう。
着生させた水苔などに直接水やりをします。
鉢植えの状態だと、水の与え過ぎは根を腐らせてしまうため、不慣れなうちは加減が難しいところです。
着生状態の胡蝶蘭は、根が空気中に出ているため、根腐れを起こす心配がありません。
株全体から葉まで、たっぷりと水を与えていきましょう。
もともと乾燥に強い胡蝶蘭ですが、空気中に根が出ている分、乾燥しやすい状態になります。
霧吹きなどでこまめに水を吹きかけて、充分な水分量と湿度を保つよう心がけましょう。
胡蝶蘭は半年ほど経つと完全に着生します。
着生してからは水を与えなくても生長していきますよ。
肥料
洋ラン用の薄めた液体肥料を、水やりの代わりに与えると生長が進みます。
活力剤などを与えるのも、着生している最中の株が回復するため良いでしょう。
鉢植えの状態で肥料を与えるのとは異なり、養分が留まらないため、鉢植えのときよりも肥料は多い頻度で与えます。
置き場所
着生させた胡蝶蘭は、風通しが良く明るい半日陰の置き場所で管理しましょう。
自生する環境は木などが生い茂った熱帯地域ですから、強い日光や直射日光は苦手です。
優しい木漏れ日が射し込むような環境作りを意識して、置き場所を選びましょう。
冬場は、窓の側や廊下などの冷え込む場所を避けて置いてください。
なるべく暖かい部屋の中ほどで管理すれば、元気に冬越しできるでしょう。
植え替え
板などに着生させた胡蝶蘭は、鉢植えのときと異なり、植え替え作業は必要ありません。
植え替え作業は、かなり慎重に進めなければなりませんし、準備や手間もかかりますから、植え替えが不要なのは嬉しいポイントですね。
着生させている素材が劣化したり傷んできたりしたら、新しい素材に移動させましょう。
着生させた胡蝶蘭のお世話で注意するポイント
鉢植えと着生させた状態では、ややお世話のポイントが異なりますが、基本は同じです。
なるべく自生環境に近づけて、特性に合った頻度での水やりや置き場所に配慮すれば、生命力の強い胡蝶蘭は元気に育ってくれます。
次は、胡蝶蘭を着生状態で育てていくうえで、少し気を付けておきたいポイントについてまとめました。
より生長を楽しんでいくために、ぜひ参考にしてみてくださいね。
空気中の湿度を意識する
着生させた胡蝶蘭は、張り出した根から空気中の水分を取り込みます。
そのため、湿度は一定以上になるよう管理しておくとベストです。
着生させる際には、水分を吸収しやすいよう水苔を使ったり、加湿器で湿度を調整したり、こまめに霧吹きなどで水分を与えるといったお世話も必要となります。
胡蝶蘭の自生地である、ジャングルのような環境にするのはとても難しいですが、なるべく近づけられるよう、室内環境を整えておきましょう。
冷暖房を使用する季節は、注意して室内の湿度を保ってくださいね。
特に乾燥する時期は、キッチンの近くなどで管理するのも良いかもしれません。
湿度の高いキッチンは、着生させた胡蝶蘭にとって楽な環境と言えるでしょう。
胡蝶蘭の近くに加湿器を置いて、乾燥対策をするのもおすすめです。
夏はたっぷり、冬は少なめに水やり
気温が高く乾燥する夏場は、少なくとも朝と夜の1日2回は水を与えましょう。
冬場の水やりは、なるべく暖かい日中に行なってください。
気温が下がり冷え込む夜に水やりをすると、根が傷んでしまう場合があるためです。
木漏れ日のような光に当てる
熱帯地域のジャングルに自生している胡蝶蘭は、強い日光は苦手です。
木々の間から差し込むような柔らかな光を好みます。
置き場所に強く日光が当たり過ぎるようなら、レースカーテンやブラインド越しに光が当たるよう調節しましょう。
置き場所を変えない
胡蝶蘭を管理する場所をころころ変えてしまうと、植物にとってはかなり負担になります。
良い置き場所を見つけたら、なるべくその場所に固定して育てましょう。
まだ育て方に慣れていないうちは、置き場所を変えることで水やりの頻度や乾燥具合が変わるため、お世話のタイミングも読みづらくなってしまいます。
次々と変わる新しい置き場所に、胡蝶蘭が適応するのも苦労してしまいますので、置き場所はなるべく固定して、変えずに育てていきましょう。
まとめ
今回は、着生植物である胡蝶蘭の特性や生長の仕組み、鉢以外に着生させる方法などをご紹介してきました。
高級な贈り物としてのイメージが強く、繊細でエレガントな雰囲気のある胡蝶蘭ですが、実はとてもタフで、力強く生き残ってきた植物だったのですね。
地面に根を張らずに生長する特徴を活かして、グリーンインテリアとしても人気のある胡蝶蘭。
鉢植えの胡蝶蘭をお持ちの方は、ぜひ着生にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
日々生長していく根の様子を観賞できるので、ますます胡蝶蘭に愛着が湧くはずですよ。