お彼岸に飾る花の選び方|行事の由来や意味も解説

お彼岸は、一年のうちの春と秋の2回訪れる、故人を偲んでお祈りをする習わしです。

仏教では、故人がいると考えられている世界のことを「彼岸(ひがん)」と呼び、生者の生きる現世を「此岸(しがん)」と呼びます。故人のいる「彼岸」は西の方角に位置しており、現世である「此岸」は東の方角に位置するものだと考えます。

春分の日と秋分の日は、真東から昇ってきた太陽が真西に沈んでいく日です。そのため、あの世である彼岸と、この世である此岸がいちばん近づく日として、お彼岸の期間としてご先祖様の供養を行う時期としました。

そんなお彼岸は四季の移ろいがある日本特有の行事であり、このお彼岸にあたる時期には、お墓参りや仏壇にお線香をあげに行きます。

お彼岸のお参りでは、どんな種類の花をお供え用として飾れば良いのでしょうか。

選び方のポイントや押さえておくべきマナーなども踏まえて、お彼岸の花選びについてご紹介していきます。

そもそもお彼岸とは

そもそもお彼岸とは、いったいどんな日なのかという基本的なところから解説していきたいと思います。

お彼岸には「春分の日」「秋分の日」が関係してきます。どちらも普段何気なく過ごしている祝日ですが、それぞれにきちんとした意味を持つことをご存じでしょうか。

春分の日は、「自然をたたえて生物をいつくしむ」祝日であり、秋分の日は「祖先をうやまって亡くなった人々を偲ぶ」祝日なのです。

そしてお彼岸は、この春分の日と秋分の日をお彼岸の中心の日として定めた、その前後3日間を含む一週間のことを指しています。お彼岸の初日を「彼岸の入り」、最終日は「彼岸の明け」と呼ばれています。

お彼岸は、故人やご先祖様への敬意を表し、感謝を捧げて亡き人を偲ぶ期間ですので、お墓参りやご仏壇にお線香をあげるというのが一般的な習わしになります。

「彼岸会(ひがんえ)」という、合同で行われる先祖供養の法要行事に参加される方もおられ、過ごし方はさまざまです。

お彼岸の期間

お彼岸は、この春分の日と秋分の日をお彼岸の中心の日として定めた、その前後3日間を含む一週間のことを指すと上記でもご紹介しました。

お彼岸は春(3月)と秋(9月)の年2回行われます。

2023年の春分の日は3月21日(火)。春のお彼岸の期間は春分の日前後なので、3月18日(土)〜3月24日(金)です。

2023年の秋分の日は9月23日(土)なので、秋のお彼岸の期間は9月20日(水)〜9月26日(火)までとなります。

「春のお彼岸」と「秋のお彼岸」の違い

お彼岸には「春のお彼岸」と「秋のお彼岸」がありますが、ご先祖様を供養するという目的は同じなので、大きな違いはありません。

しいて言えば、お供えする食べ物の違いでしょう。

お彼岸にお供えする食べ物には牡丹餅(ぼたもち)やおはぎが挙げられますが、牡丹餅(ぼたもち)は春のお彼岸のお供えする生菓子で、牡丹の花に見立てて供えられています。

一方秋のお彼岸には、萩に見立てたお萩(はぎ)をお供えしましょう。

お彼岸は花で故人を敬いましょう

お彼岸の時期に使われる言葉として、「入り花を折らぬ」というものがあります。

これは、お彼岸の時期を迎えてから、慌ただしくお墓の掃除をして、お供えの花を買いに走らず、前もって準備を始めておき、余裕を持った心で故人を敬いましょう、という意味の言葉です。

常日頃から心の余裕を持てない生活をしていれば、「そろそろお彼岸の時期だな」と気づくこともありません。いつも少しだけ心の余裕を携えて、目の前のことで手一杯にならず、故人へ思いを馳せる心構えが欲しいものですね。

お彼岸のお墓参りやご仏壇参りで必要なのは、まずはお花です。お盆やお彼岸の時期に供えられるお花は、「仏花(ぶっか)」や「供花(くげ・きょうか)」「盆花(ぼんばな)」などと呼ばれています。

お彼岸に飾ってはいけない花とは

お彼岸でお供えとして飾るお花には、必ずこれを供えなければならないという決まったものはありません。故人を偲ぶための期間ですから、故人の愛したお花や、お彼岸の時期に旬を迎える季節感のあるお花を飾っても良いのです。

ただし、厳密な決まり事はないと言っても、一般的なマナーとしてお彼岸の花としてふさわしくない花はいくつか挙げられます。

また、故人が亡くなってから年数が経っている場合は、色合いに関してはそこまで気を配らなくても良いのですが、まだ亡くなってから日の浅いうちは、花の色合いにも気を配ると良いでしょう。

まだご遺族の悲しみが癒えないうちは、白色の花をメインにして、合わせる色は青・紫・黄などの落ち着いた色合いを選びます。

ここからは、お彼岸に飾ってはいけない花について見ていきましょう。

棘や毒性を持っている花

仏教では、命を奪う殺生を「不殺生戒(ふせっしょうかい)」として最大の罪だと考えます。したがって、故人を偲ぶ場面において、怪我や殺生などを連想させる棘のある花や、毒性を持っている花は、お供え用のお花としては避けるべき種類になります。

また、毒性を持っているお花に関しては、仏事以外のお祝い事のシーンや贈り物としてもタブー視されているので、知らなかったで済まさないよう注意しましょう。

お彼岸といえば、連想するのはお墓の周りに多く植えられている「ヒガンバナ」ですが、アルカロイド系の毒性を持つことで有名です。この毒性を利用して、墓地や畑が荒らされないようにたくさん植えられているのですが、「死人花(しびとばな)」と呼ばれることもあり、あまり良い印象は持たれません。

一日で萎んでしまう花

一日花とは、朝に咲いて夕方には萎んでしまう性質の花のことを指します。ハイビスカスやアサガオなどが一日花にあたります。

この一日花も、「無常」や「死」を連想させることから、お供え用の花としては避けたほうが良いお花です。

香りが強い花・花粉が多い花

仏教では、肉体をなくした仏様は、供えられた食事を匂いで楽しみ、召し上がるのだと考えられます。したがって、故人の食事を邪魔して打ち消してしまうような強い香りを持っている花は、墓前や仏前のお供えには不向きです。

他にも、香水などの香料のように、体質に合わず気分が悪くなる方もいるかもしれません。

また、花粉が多く散ってしまう花は墓前を汚してしまいますので避けましょう。

それ以外にも、アレルギー体質をお持ちの方が、花粉が多いお花によってアレルギー症状を起こし、体調がすぐれなくなることも考えられます。

お彼岸に飾りたい長持ちするお花の種類

仏花には「枯れることにも意味がある」と考えられるものですが、できるだけ長持ちするお花を選ぶのがお彼岸のマナーでもあります。

秋のお彼岸では、まだまだ夏の暑さが厳しいので、暑さに強いお花だと長持ちしやすいです。

最後に、お彼岸に飾るお花として、長持ちしやすい花をご紹介します。

カーネーション

科・属 ナデシコ科・ナデシコ属
和名 和蘭石竹(おらんだせきちく)、麝香撫子(じゃこうなでしこ)
英名 carnation
学名 Dianthus caryophyllus
原産地 南ヨーロッパ、西アジア
花言葉 「無垢で深い愛」

仏花としては白色のカーネーションが多く用いられています。

通常、母の日に贈るのは赤いカーネーションですが、すでに亡くなられたお母様へ贈るのは白いカーネーションです。

白色には「私の愛は生きています」という花言葉を持っているので、お彼岸の花としてもふさわしいのですね。

キク 

科・属 キク科・キク属
和名 菊(きく)
英名 Chrysanthemum、Mum
学名 Chrysanthemum
原産地 中国
花言葉 「高貴」「高尚」「清浄」「真実の愛」

日本を代表する花でもあるキクは、天皇家の御印章にも使われています。

キクは暑さの中でも花持ちが良いお花ですが、仏花として多く用いられるのには、キクが邪気を払う力を持っていると考えられているためです。

他にも、古来より大切にされてきた高貴な花であるキクを供えて、故人を敬うという意味も持っています。

キンセンカ

科・属 キク科・キンセンカ属
和名 金盞花(きんせんか)
英名 Pot marigold
学名 Calendula officinalis
原産地 地中海沿岸
花言葉 「別れの悲しみ」「慈愛」「忍ぶ恋」

キク科のキンセンカは、キクの仲間であるだけあって花持ちが良く、「別れの悲しみ」や「慈愛」の花言葉もあることから、お供え用の花として適しています。

キクよりもエネルギッシュな色合いのオレンジ色が定番であるキンセンカは、寂しくなってしまいがちな墓前を明るく彩ってくれそうですね。

あまり明るすぎる色を飾るのは気が引けるという方は、淡い色合いのキンセンカもありますので、そちらを選んでみてはいかがでしょうか。

スプレーマム 

科・属 キク科・キク属
和名 スプレー菊(ぎく)
英名 Spray mum
学名 Chrysanthemum morifolium
原産地 アメリカ
花言葉 「清らかな愛」「高潔」「あなたを愛す」「気持ちの探り合い」

日本のキクを親として、アメリカで品種改良されて誕生したスプレーマムは、日本原産のキクと区別するために「西洋菊」とも呼ばれています。

このスプレーマムはフランスの墓前で多く飾られている花で、控えめな色合いで飾る日本でのお供えの花とは違い、フランスではにぎやかでカラフルなスプレーマムが墓前を彩っています。また、切り花としてだけではなく、鉢植えのスプレーマムをお供えするのも日本との違いです。

スターチス 

科・属 イソマツ科・イソマツ属
和名 花浜匙(はなはまさじ)
英名 Statice, Limonium
学名 Limonium sinuatum
原産地 ヨーロッパ
花言葉 「変わらぬ心」「永遠に変わらない」「途絶えぬ記憶」

かさついた質感が特徴的なスターチスは、花びらのように見える色づいた部分は萼であるため、観賞用としてとても長く美しい姿を楽しめます。

色が褪せにくく、そのままの色合いで残りやすいので、ドライフラワー用の花材としても人気があります。

この色が褪せにくいという性質から、スターチスの花言葉には「変わらぬ心」「永遠に変わらない」「途絶えぬ記憶」というものがあります。故人を思い出し、心の片隅にあるという気持ちをスターチスに託して、お供えしてみてはいかがでしょうか。

スイートピー

科・属 マメ科レンリソウ属
和名 スイートピー
英名 Sweet pea
学名 Lathyrus odoratus
原産地 イタリア
花言葉 「門出」「別離」「優しい思い出」「永遠の喜び」

良い香りが特徴のスイートピー。ピンク、白、紫や黄色など、花色も豊富でとても可愛らしい雰囲気のお花です。約1〜2週間ほどもつとされており、花持ちの良さも魅力です。

「優しい思い出」という花言葉がつけられているので、故人との思い出に愛を込めてスイートピーをお供えしてみてはいかがでしょうか。

トルコキキョウ

科・属 リンドウ科 ユーストマ属
和名 トルコキキョウ
英名 Lisianthus
学名 Eustoma
原産地 アメリカ
花言葉 「優美」「希望」「すがすがしい美しさ」

トルコキキョウも花持ちがよく、お供えの花として定番です。通年流通しているため、いつでも手に入れやすいこともメリットでしょう。

花色は白やピンク、グリーンや紫色などとても豊富です。トルコキキョウは淡い色合いのものが多いので、鮮やかすぎずに優しい雰囲気の花束になるでしょう。

お彼岸のお墓参りの手順

お墓参では、墓前へと出向く前に、忘れ物がないようにしっかり確認しておきます。

最近では霊園などの近くに売店が設けられているので、出先でもお墓参りに必要な物を揃えることもできますが、便利な環境下にない場合は責任を持って自分で持参しましょう。 

【お墓参りでの持ち物】

・お線香

・仏花

・着火剤

・五供(お菓子などのお供え物)

・半紙などの白紙

・数珠

・掃除用品

1.まずはお墓の掃除から

お墓に着いたら、まずは一息ついて合掌をします。故人へ挨拶をしたら、まずは掃除から始めていきましょう。周りの落ち葉などを箒で掃いたり拾ったりして、雑草も抜いておきます。

墓石にひしゃくで水をかけ、柔らかい雑巾などで拭き掃除をしましょう。手桶やひしゃくといった道具は現地で貸し出されていることがほとんどなので、そちらを利用します。

余裕があれば、使い古しの歯ブラシなどを持っていくと、墓石の細部まで掃除できます。

最後に、きれいな布で墓石の水気を拭き取ります。

2.花立に花を供える

お墓の左右にある花立に、持参した花が左右対称になるよう整えてお供えします。

たくさんの花束は入りませんので、一束は余裕を持って立てられるように少量にしましょう。3・5・7本の奇数本で、2束で1対になるように準備しておきます。

このときのお花の供え方としては、

  • 仏様に向ける方法
  • 八方に向ける方法
  • お参りする側へ向ける方法

上記の3種類があるのですが、一般的な手順ではお参りする側へと向けます。故人に向けて供える花ではありますが、お参りする者の心を癒すための花でもあるからです。

3.水鉢の水を換える

水鉢(お水を入れておくくぼみ)は、故人の飲み水を溜めておく場所ですが、水鉢のお水は掃除にも使って構いません。

水鉢の中をきれいな水へと入れ替えることによって、お参りに来た者の心を清めるという意味があります。

4.お菓子などを供える

持参したお供物のお菓子などがあれば、ここでお供えします。故人の好物だった食べ物やお菓子、お彼岸用のぼたもちやおはぎなどもお供えしましょう。

供える際には、直接墓石の上に置くのではなく、あらかじめ用意した半紙などの白い紙の上に供えてください。

5.線香をあげて合掌する

お線香の香りは、お参りする者の心身を清めるためにあげるものですが、仏様がお線香の香りを食事として召し上がっているのだという考えもあります。

ろうそくの灯りは煩悩を打ち消す光なので、ろうそく立てがあるお墓ではろうそくも立てておきます。お線香をあげて、故人と近しい間柄の人から順番にお参りをしていきます。

お参り後には、線香やろうそくの火は息で吹き消さないでください。手などで扇いだ風で線香の火を消すようにします。

 ※ここでご紹介するのは一般的なお参りの手順です。宗派や地域によっても異なります。

お墓参りでのマナー

故人に喜んでもらおうとした行為も、社会的にマナー違反にあたる行為となっては意味がありません。

良かれと思ってしたことも、知らないうちに迷惑をかけてしまわないよう、お墓参りにおいてのマナーや注意点を確認しましょう。

飲み物を墓石にかける

お酒をよく嗜まれていた方には、ビールや日本酒、好んで飲んだジュース類などを召し上がってもらいたいですよね。しかし、墓石にお水以外の飲料をかけてしまうのはマナー違反です。

墓石が早く劣化してしまったり、シミができてしまったりするばかりか、糖分を多く含んでいるジュース類をまいてしまうと、虫が寄ってきてしまいます。お隣のお墓にもご迷惑がかかりますから、飲み物類をお供えしたいときには、容器に入れたままで供えましょう。

お供えした物は持ち帰る

ぼたもちやおはぎなどのお菓子や、飲料類、果物などのお供え物は、お参りが終わったら必ず持ち帰ってください。このまま放置して立ち去ると、食品類は腐ってしまい、害虫や鳥などを引き寄せる原因になります。

お墓の環境が悪くなるばかりか、衛生面でも問題が出てきてしまうので、周りへのご迷惑がかからないよう、必ず持ち帰ることを忘れないようにしてくださいね。

お花に関しては、お供えしたままで立ち去って構いません。

 必ず火を消して帰る

お参りであげたお線香の火は、燃やし切るまでゆっくりと待ってから立ち去ることが多いのですが、ろうそくの火などは火事の原因となってしまいます。

火の元をなくして、周囲の安全を確認してから帰りましょう。

現地の規則に従う

お寺や霊園によっては、一般的なルール以外にも、墓地独自のルールを設けている場所もあります。基本的にお供えした花はそのままにして立ち去って良いのですが、場所によってはお花も持ち帰らなければならないケースもあるのです。

墓地でのルールをきちんと確認して、霊園側の規則に従いましょう。

お彼岸に関するQ&A

最後に、お彼岸に関するよくある質問にお答えしたいと思います。

お彼岸とお盆の違いは?

一見よく似たように思えるお彼岸とお盆ですが、それぞれ行う時期と目的が異なります。

上記でもご紹介しましたが、お彼岸は春と秋の年2回行います。

この世である此岸がいちばん近づく日として、お彼岸の期間としてご先祖様の供養を行うことを目的としています。

そして、お盆は年1回、地域によって時期は異なりますが、8月に行うのが一般的です。お盆はきゅうりやナスで作った「精霊馬」をお供えすることからもわかるように、ご先祖様を「彼岸から此岸(家)にお迎えしてご供養する」のが目的です。

お彼岸でやってはいけないこととは?

必ずしもやってはいけないということは決まってはいないのですが、結婚式やお見舞いをお彼岸に行うのは縁起が悪いと思われる可能性もあるため注意してください。

なぜお彼岸にはおはぎやぼたもちを食べるの?

お彼岸では、ぼたもちやおはぎを供えたり食べたりする習慣があります。

なぜこの2つの和菓子がなぜ供えられているのかというと、それぞれを牡丹の花や萩に見立てているためです。

牡丹餅(ぼたもち)は春のお彼岸のお供えする生菓子で、牡丹の花に見立てて供えられています。一方秋のお彼岸には、萩に見立てたお萩(はぎ)が供えられています。

まとめ

今回は、お彼岸の時期に供えるお花について、選び方やおすすめの種類、お彼岸の由来や意味などをご紹介してきました。

秋のお彼岸はまだまだ夏の厳しい暑さが残り、お供えした切り花も早くにしおれてしまいます。なるべく少しでも長持ちするような暑さに強いお花を選んで、墓前にお供えしましょう。

そしてお彼岸の時期には、故人を敬って感謝を捧げ、余裕を持ってお彼岸参りの準備に取り掛かることを忘れないでくださいね。

大切なあの人にお花を送ってみませんか?