早春に漂う甘い香り。ヒヤシンスの育て方や品種、花言葉など
早春に花開くヒヤシンスは、とても良い香りの漂う魅力的なお花です。
球根植物の代表格でもあるヒヤシンスは、小学生の頃に水栽培の勉強として育てた経験がある方も多いのではないでしょうか。
今回は、茎の先にたくさんの小花を集めて咲かせるヒヤシンスの育て方について、人気のある品種や、お花にまつわる神話の物語も交えつつ、詳しくご紹介していきたいと思います。
ヒヤシンスの基本情報
科・属 | ユリ科・ヒヤシンス属 |
和名 | 飛信子、風信子、夜香蘭、錦百合 |
英名 | Hyacinth |
学名 | Hyacinthus orientalis |
原産地 | 地中海東部 |
ヒヤシンスの特徴
ヒヤシンスは秋植えの球根植物で、春先になると太い茎先に連なるようにして、星の形をした小さな花をたくさん咲かせます。草丈は約20cmと低いため、室内でも育てやすいサイズ感です。
球根植物であるヒヤシンスは、お庭などで地植えしても、鉢植えにしても育てられますし、土を使わない水栽培で育てることもできます。通常はひとつの球根からひとつの花を咲かせますが、最近では品種改良が進んでおり、ひとつの株から数本の花を咲かせる品種も流通をしているようです。球根の表皮の色を観察すると、咲く花の色の目星がだいたい付きます。
花色には、ポピュラーな紫色以外にも、青紫や白、黄、オレンジ、ピンクなどがあり、バラエティ豊かな色合いを楽しむことができます。
その色合いが美しい花からは、とても良い香りが漂い、少し離れていても香るほどです。
このヒヤシンスの香りには、リラックス効果や疲労回復があるとされ、香料としても使われています。
ヒヤシンスの名前の由来
ヒヤシンスの和名は「風信子」「飛信子」「夜香蘭」「錦百合」など、いくつかあります。
地中海周辺を原産地とするヒヤシンスは、チューリップとあわせて江戸時代後期にフランスから日本へ持ち込まれました。明治時代には「ヒヤシンス」と呼ばれていたと言われています。持ち込まれた当時に、「ひやしんす」という音に合うような当て字が考えられ、「風信子」や「飛信子」の和名が生まれました。ちなみに「夜香蘭」はヒヤシンスの持つ魅力的な甘い香りから付けられ、「錦百合」は花の形がユリに似ているために付けられた名前です。
英名であり学名でもある「ヒヤシンス」は、ギリシャ神話に登場する美少年・ヒュアキントスにまつわる話が基になっています。こちらの神話については、後述で詳しくご説明していきますね。
ヒヤシンスの花言葉
カラーバリエーションが豊富なヒヤシンスですが、花全体とあわせて色別にも花言葉が付けられています。
全体 | 「悲しみを超えた愛」「遊戯」 |
英語 | 「sports」「games」「rashness(無分別)」 |
紫 | 「悲しみ」「悲哀」「初恋のひたむきさ」 |
白 | 「控えめな愛らしさ」「心静かな愛」 |
赤 | 「嫉妬」 |
青 | 「変わらぬ愛」 |
黄 | 「あなたとなら幸せ」「勝負」 |
ピンク | 「しとやかな可愛らしさ」 |
「悲しみ」や「愛」にまつわる花言葉が多いヒヤシンスですが、英語の花言葉に「スポーツ」や「ゲーム」があるのは、なんだか不思議な気がしますよね。
実はこの花言葉も、ヒヤシンスの名前の由来でもあるギリシャ神話のストーリーに由来しているのです。
美少年ヒュアキントスから生まれた花
先述したように、ヒヤシンスの名前はギリシャ神話に登場する「ヒュアキントス」という少年に由来しています。
ヒヤシンスの誕生秘話は少し悲しいお話になりますが、なぜヒヤシンスの花が生まれたのか、そしてゲームやスポーツといった珍しい花言葉があるのかについて、ご説明していきましょう。
ヒュアキントスは大変見目が美しい少年で、その美貌から太陽神・アポロンと西風の神・ゼピュロスの、2人の男神から想いを寄せられていました。
ヒュアキントス自身は、移り気な性格のゼピュロスよりも、知・技・体のすべてを兼ね備えたアポロンに惹かれていたので、アポロンに仕える従者となり、2人は恋人になりました。
ある日、ヒュアキントスとアポロンが円盤投げをして楽しんでいると、2人の親しげな様子にゼピュロスが激しく嫉妬をします。 自分よりもアポロンが選ばれ、ヒュアキントスに見向きもされない怒りからゼピュロスがわざと風を起こすと、投げていた円盤の軌道がずれ、ヒュアキントスの額に当たり大怪我を負ってしまいます。 血を流しすぎたあまり命を落としたヒュアキントスの血の跡からは、美しい花が咲いたそうです。 ゼピュロスの悪事を知らずに、自らが投げた円盤のせいで愛しい想い人を失ったと嘆くアポロンは、血の跡に咲いた花を見て、「AI、AI(悲し、悲し)」と悲しみます。
ヒュアキントスの血から咲いた花がヒヤシンスであり、アポロンが嘆く姿から悲しみのシンボルとなったのです。
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古代ギリシャにおいて同性愛は珍しくなく、恋多きアポロンも女性だけではなくヒュアキントスを愛し、誰よりも愛情を注いだとのことです。
ちなみに、この悪さをした神・ゼピュロスは、かの有名な絵画「ヴィーナスの誕生」の左手で、ヴィーナスへ息を吹きかけている人物を指します。
このヒュアキントスが遂げた非業の死から、ヒヤシンスの花が誕生したと言われ、花言葉もアポロンと興じていた円盤投げにちなみ、「ゲーム」「遊戯」などの花言葉があるのですね。「嫉妬」「変わらぬ愛」「悲しみを超えた愛」も、この神話の物語から連想された花言葉でしょう。
ヒヤシンスの品種
ここまでは、ヒヤシンスにまつわる少し悲しい神話をご紹介しました。
世界各国で愛されているヒヤシンスは、現在では大変多くの品種数が存在しています。
その中でも、オランダで品種改良されたものは「ダッチ系」、フランスで品種改良されたものは「ローマン系」と、2つに大きく分けることができます。
ダッチ系もローマン系も、ヒヤシンスの魅力である甘い良い香りは同じです。
市場に多く流通しているのはダッチ系のヒヤシンスなので、私たちがよく見かけるのはダッチ系がほとんどでしょう。ここでは、ヒヤシンスの品種をご紹介していきます。
ダッチ系
ダッチ系のヒヤシンスは水栽培がしやすく、1本の茎に対して縦に連ねて小花を咲かせます。
花数が多いので1本でも充分な豪華さを持っている、とても華やかな品種ですが、球根が自然に分かれにくいため増やしにくいのが難点です。
代表的な品種には、白い花を咲かせる「カーネギー」、青い花の「デルフト・ブルー」、黄色い花の「シティ・オブ・ハーレム」などがあります。
ローマン系
ローマン系ヒヤシンスは、ダッチ系と比較すると花数が少なく、草丈も低めになります。
ひとつの球根から複数の茎を出して横向きに花を咲かせていく、可憐で控えめな雰囲気です。自然に球根が分球していくので、特別な手間を掛けずとも簡単に株を増やしていけます。
ヒヤシンスの育て方:基本編
それではいよいよ、ヒヤシンスの育て方についてご説明していきましょう。
育て方には、土で育てる土栽培と、水で育てる水栽培があります。
そちらでも育てることができますので、お好きな方法を選んでみてくださいね。
植え付け
球根を植える時期は、10〜11月頃の秋口が適期です。
鉢植えなどで育てる場合には、水はけが悪いと球根を腐らせてしまう恐れがあるため、水はけの良い土を準備します。市販されている草花用の培養土や球根用の培養土を使用して、水はけ具合に応じてパーライトなどを足すと、排水性が上がります。
球根は、傷がなく重みがあり、根の部分がちょっと出ている生長しやすい球根を選びましょう。水栽培用と土向けの球根が販売されているので、栽培方法に応じた球根をお買い求めください。
【鉢植えの手順】
(1)鉢に鉢底ネット・鉢底石を敷いて土を入れます。
(2)球根1個分くらいの深さで、鉢の中心に球根を置きます。
(3)球根の頭が少し出るくらいまで土を被せていきます。
(4)球根の周りを埋めるように土を足していき、たっぷり水を与えます。
同様に、庭に地植えすることもできますので、ガーデニングスペースをお持ちの方はぜひチャレンジしてみてください。
【庭植えの手順】
(1)風通しが良く、日当たりの良い場所に土作りをしておきましょう。
(2)球根2個分ほどの深さで穴を掘り、球根を置きます。
(3)並べて植える場合には、隣の球根とは3個分ほど間隔を空けておきましょう。
(4)土を被せたらたっぷりと水を与え、その後の水やりは控えます。
【水栽培の手順】
(1)球根の底に少しつくくらいの水量をポットに入れます。
(2)根に直接光が当たるのを防ぐため、下部分をアルミなどで覆うのもおすすめです。
(3)2〜3週間後に発根するまでは、涼しい日陰で管理しましょう。
(4)水を清潔に保つため、週1回ほど水を入れ替えます。取り替えてください。
置き場所
ヒヤシンスは、基本的には日当たりの良い場所に置いて管理してください。
日照不足になると花が咲かず、せっかくの良い香りを楽しめませんので、室内で管理している場合にもときどき日光浴させるようにしてくださいね。
ヒヤシンスは冬の寒さにさらされることで、花芽を芽吹かせる性質を持っています。
発芽してから開花するまでは、適度な寒さに慣らせつつ日光に当てて開花を促進しましょう。水栽培で育てる場合にも、12月頃までは日光浴をさせつつ、適度な寒さにさらしてあげると、上手に開花が進んでいきます。
水やり
鉢植えで育てる場合には、秋から翌年の春までは生育期にあたるため、水不足にならないよう水やりに注意して育てていきましょう。
鉢土が乾いたことを確認してから、鉢底から水が流れ出るほどたっぷりと水を与えます。
5〜6月頃には休眠期を迎えて葉が枯れてきますが、それまでは土が乾いたらたっぷり水を与えていきます。
休眠期に入ったヒヤシンスは、だんだんと水やりの頻度を減らしていきましょう。
水やりは、できれば午前中に行なうと株への負担が少なく済みます。
夜間につれて気温が下がり冷え込んでいくため、夕方以降の水やりをすると球根が凍ってしまう恐れがあるので、注意が必要です。
地植えの場合は、しっかり根付いてからは特に水やりは不要で、水栽培の場合には、水量が減ってきたら足す程度で問題ありません。
肥料
土で栽培するときは、植え付け時に緩効性の置き肥料を混ぜておきます。
株元からつぼみがだんだんと顔を覗かせてくる頃になったら、緩効性肥料を追肥してください。
球根から発芽して開花させるまでの間には、1週間~10日ほどの間隔で速効性の液体肥料を使いましょう。説明書にある既定の希釈よりもやや薄く作って与えると、肥料過多による肥料やけが起きにくくなります。
開花期間は、土栽培でも水栽培でも液体肥料を必ず与えてください。
ヒヤシンスの育て方:応用編
さて、基本的な育て方はマスターできたでしょうか。
美しく開花してくれたヒヤシンスは、翌年も美しい花を楽しむためには、どんなお手入れをすれば良いのでしょう。
続いては、花が咲いた後の管理方法について、応用編としてご紹介していきます。
植え替え
地植えにしたヒヤシンスは、数年間植えたままで放置していても、球根によほどのダメージがない限りは毎年花を咲かせてくれます。
ただし鉢植えの場合には、2年に1回ほど球根を新しい土へ植え替えるのが望ましいです。
必ず花が咲き終わってから植え替え作業を行ないましょう。
【植え替え手順】
(1)花が終わったら、葉を残して根元付近で切り取ります。
(2)残りの葉で光合成をさせて養分を蓄えさせたら、一回り大きい鉢に植え替えます。
(3)水やりは行わず涼しい日陰で管理して、秋に水やりを再開します。
※もしくは、球根を土から掘り出して、ネットなどに入れて涼しい場所に吊るして乾燥させておき、秋になったら植え付けるという手順でも構いません。
増やし方
ヒヤシンスは、分球という方法で数を増やすのが一般的です。自然分球をしないので、ナイフでスクーピングやノッチングと呼ばれる処置を、球根に加える必要があります。ただし、これらの方法は非常に難易度が高いので、初心者には不向きです。
初心者の人やスクーピングやノッチングに自信がない人は、球根に浅い切込みを入れる程度の処置をすると良いでしょう。
ヒヤシンスの分球に必要な道具は以下の通りです。
- 土入れorスコップ
- 球根を乾燥させるためのネット
- 園芸用の清潔なナイフ
清潔なナイフは、消毒や熱湯消毒をしてあれば問題ありません。
次にヒヤシンスを分球する方法をご紹介します。
- ヒヤシンスが枯れているのを確認したら球根を掘り上げる
- 球根をネットに入れて約1ヶ月間日陰で乾燥させる
- スクーピングやノッチングの処置を行う
- 球根を逆さまにしてネットへ入れる
- 子球が確認できたら親球から切り離す
- 植え付けに適している10月〜11月に子球を植え付ける
ヒヤシンスの球根はすぐに分球ができるわけではありません。上記の手順が必要になるので、植替の時期を逆算して前もって準備をしておくとよいでしょう。
花が咲き終わったあとの手入れ
地植えにしたヒヤシンスは、数年間植えたままで放置していても、球根によほどのダメージがない限りは毎年花を咲かせてくれます。
ヒヤシンスは「永続型球根」という球根で、球根が傷まなければ、永続的に花を咲かせる草花です。
ですが、球根に蓄えた養分が減るにつれ花の大きさやボリュームも小さくなります。
花が咲いたままだと、種を作るエネルギーが開花に持っていかれてしまい、球根がエネルギー不足によって弱ってしまうのです。
毎年、豪華な花付きを楽しみたい場合には、花が咲いた後のお手入れが欠かせません。
花が終わったら必ず摘み取り、光合成によって養分を蓄える必要がありますので、葉を残して根元付近で茎を切り取ってください。
余分な部分を切り取ると、種を残すほうへ養分を回すことができます。
葉が黄色や茶色に変色するまではそのまま放置しておき、色が変わったら根元付近で葉も切り取ってしまいます。
【花が枯れた後の手順】
(1)花茎を切り落とし、葉を残して根元まで切り戻します。
(2)葉や茎の色が茶色くなってきたら切り取り、球根を出しましょう。
(3)周りに付いた土を取り払い、ネットなどに入れて球根を保管します。
(4)9月頃になったら、また球根を植え直しましょう。
もしも花が枯れてしまったら
もしヒヤシンスの花が枯れてしまった場合には、とても残念ですが枯れた花を切り取りましょう。
翌年また花を咲かせるため、先述した花が咲き終えたときの手順と同じく、葉を残して根元付近で切り取り、栄養を蓄えさせてください。
短期間でも花を咲かせた球根は小さくなりやすいので、液体肥料を一度だけ与えて養分の補給を助けると良いでしょう。土に肥料を混ぜ込んでいる場合などは不要です。
球根を掘り出したら、再度球根を植えられる秋頃まで、ネットなどで吊り下げて保管しておきましょう。
球根が乾き切らないとカビなどが発生してしまうので、風通しの良い涼しい場所で保管してくださいね。
ヒヤシンスは実生栽培もできる
球根以外にも、ヒヤシンスは種から実生栽培も可能です。種を育てていくとだんだんと球根が形作られていきます。
花を切り取らないまま完全に枯れるまで置いておくことで花の中に種ができますので、採取してみてください。
ただし、採取した種を土に蒔いてから開花するまでには、相当な年月がかかります。
球根から育てるほうがお手軽で難易度も低く、球根を分けても同じ色の花が咲くという特徴もありますので、花壇を同じヒヤシンスの色で埋めたい場合などは球根で育てていくことをおすすめします。
まとめ
今回は、早春から咲かせてくれるヒヤシンスの育て方や魅力についてご紹介してきました。
土栽培・水栽培のどちらでも楽しめるヒヤシンスは、比較的育て方が簡単です。
球根にダメージさえなければ、同じ球根で毎年花を咲かせてくれますよ。
適度に冬の寒さにさらして、温度管理にメリハリを付けることが開花のコツです。
室内でもお庭でも育てられるヒヤシンスに挑戦してみてはいかがでしょうか。
見た目も豪華で美しく、香りも良いため、贈り物としても喜ばれます。
ヒヤシンスをフラワーギフトに選ぶ際には、ぜひギリシャ神話にまつわる花言葉も参考にしてみてくださいね。