胡蝶蘭の夏の育て方|暑さ対策をして元気に育てよう。

胡蝶蘭はもともと熱帯地域で育つ植物です。暑さに強い性質を持ってはいますが、春や秋と同様の育て方では株が元気をなくしてしまうかもしれません。

夏には夏の育て方というものがあり、暑さに配慮することで胡蝶蘭をより元気に育てられます。

日光の当たり具合や水やりをする時間帯や頻度など、簡単なポイントを頭に入れておくだけで胡蝶蘭を夏の暑さから守ることができますよ。

今回は、夏の間の胡蝶蘭の育て方について詳しくご紹介していきます。

 

胡蝶蘭の基本情報 

科・属 ラン科・ファレノプシス属
和名 胡蝶蘭(こちょうらん)
英名 Phalaenopsis, Moth Orchid
学名 Phalaenopsis aphrodite
原産地 東南アジア

 

冒頭でも触れたように、胡蝶蘭の原産地は東南アジアの熱帯地域です。

胡蝶蘭といえば、白く大輪の花が美しく整列して咲く高級なお花で、お祝い事などの特別なシーンで用いられる贈答品というイメージが強いですよね。

しかし、原種の胡蝶蘭は今のような純白の美しさはなく、やや黄色がかったクリームがかった色だったと言われています。品種改良が多く行われ、現在のような純白の花が主流になりました。

 

名前の由来

胡蝶蘭の白く大ぶりな花は、蝶が羽を広げている様子に似ていますよね。そのため、蝶の別名である「胡蝶」のようなランであることから「胡蝶蘭」と呼ばれるようになりました。

英名では蛾を意味する「Moth」と、洋ランを指す「Orchid」を合わせ、「Moth Orchid」と呼ばれています。ちなみに学名では、「蛾のような」という意味を持つ「ファレノプシス」と呼ばれます。

日本では胡蝶蘭の花を蝶に例え、英語圏では美しい蛾に例えていますが、どちらも美しい姿は同じもので、胡蝶蘭の美しさは世界共通と言えるでしょう。

 

胡蝶蘭の生態を知ろう

植物のお世話をしていく前に、まず覚えておきたいのが植物の生態です。

花や植物を育てるうえでは、なるべくその植物の本来の生育環境に近づけることが非常に大切になってきます。植物によって過ごしやすい気温も違いますし、湿度も異なります。もちろん、そっくりそのまま再現することは難しいので、「なるべく本来の環境に近づける」ことが重要です。

それではまず、胡蝶蘭がもともとはどのような環境で自生していて、どんな生態をしているのかについて知っていきましょう。

 

着生植物である胡蝶蘭

胡蝶蘭は「着生植物」という植物に分類されます。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、着生植物とは樹木や枝、岩肌などに根を絡ませて、地面に根を張らずに生息している植物です。

他の樹木などに根を張る植物と聞くと「寄生植物」と混同されやすいのですが、寄生植物とは、他の植物に寄生して、宿主となる植物から栄養を奪い取っていく植物のことを指します。

着生植物はそのような寄生植物とは違い、他の植物から栄養分を吸い取ることはなく、自分が生長する分のエネルギーは自分で作り出します。つまり、他の樹木や岩肌などを「間借りしている」状態です。

 

土に根を張らない胡蝶蘭が誕生した理由

一般的な認識として、植物は土に根を張って、土から養分や水分を吸収して、光合成を行うのが普通ですよね。ですから、土に根付かない植物はどうやって生きているのだろう?と疑問に思ってしまいます。

また、どのようにして独特な生態へと進化したのかも不思議なところです。

胡蝶蘭が地面に根付かない理由は、着生ランの原種が誕生した頃にまで遡ります。

着生ランは、他の植物たちと比べるとかなり遅く地球に誕生しています。その頃には、すでに他の植物たちが地面を埋め尽くしており、着生ランが十分に日光や養分を確保できそうな余地はありませんでした。

そこで、着生ランは自らを繁殖させていく場所として、競争率の少ない樹木の上や岩肌などを選びます。ここなら、他の植物たちと栄養分を奪い合うこともなく、捕食される危険がある動物などからも身を守ることができます。

ただし、土壌とは異なり水分などを簡単には得られません。そこで着生ランは、自らの根や葉などの器官を環境に適応させて進化させていったのです。

 

胡蝶蘭が生きる仕組み

それでは、着生ランである胡蝶蘭は具体的にどのようにして栄養分を確保しているのでしょうか。注目するのは胡蝶蘭の持っている独特な「根」です。

胡蝶蘭の鉢植えを見たことがある方はお分かりになると思いますが、ぐねぐねとした独特な形の根が剥き出しになっていますよね。実はこの空気中に出ている根で、樹木などに着生して株全体を支えているのです。その役割は株を支えるだけではなく、空気中の水分を吸収して取り入れる役割も果たしています。

通常、地面に根付いて育つ「地生植物」は、根が土から出てしまうと萎れて枯れてしまいます。しかし、鉢植えの胡蝶蘭を見てお分かりいただけるとおり、胡蝶蘭の根は干からびて枯れてしまうということはありません。なぜかといえば、自生地では空気中に根が出ていることが普通だからです。

 

ポンプでありタンクでもある胡蝶蘭の根

胡蝶蘭の独特な生態の要となる根は、株全体を支える役割、空気中の水分を取り入れる役割、全体に水分を送り届けるポンプとしての役割、水分をしっかりと蓄えておく役割と、かなり多くの機能を果たしています。

胡蝶蘭の根の表面は、よく見てみると白っぽい組織で覆われています。これは、根の表面に細かな毛がびっしり生えているため白っぽく見えています。この細かい毛で空気中の水分を吸収して、株に取り入れています。

根の中には細い芯のようなものが通っていますが、この部分が株全体に水分を行き渡らせるポンプとしての役割を担います。

このポンプとなる芯を多肉質の組織が包んでいるのですが、この多肉質な部分は送られた水分を蓄えるタンクの役目を果たします。胡蝶蘭の花びらや葉に触れてみると肉厚な質感をしていますが、土壌で育たない胡蝶蘭が少しでも水分を多く蓄えておくために発達した結果です。

根以外に花びらや葉にも水分を確保しておくことで、長く雨が降らない、乾燥した日が続くといった水分不足にも対応できます。

 

着生植物の仲間たち

胡蝶蘭のような着生植物の代表的な品種では、「チランジア」が有名です。

西部劇などのガンマンが相対するシーンで、乾いた風に吹かれて砂漠を転がっている枯れ草のような植物がありますよね。あれこそが、「エアープランツ」とも呼ばれているチランジアです。

他にも、近年では「コウモリラン」の名前で親しまれている「ビカクシダ」もインテリアグリーンとして人気が高まっています。ビカクシダの葉は特徴的な形をしており、その形がトナカイのように大きな角を持つ大鹿の角に似ていることから「麋角羊歯(びかくしだ)」と呼ばれています。

コウモリが羽を広げている様子にも見えることから「コウモリラン」とも呼ばれますが、ビカクシダはシダ科の植物であり、胡蝶蘭と同じラン科の仲間ではありません。花は咲かせず、胞子で繁殖していきます。

これらの着生植物は土を必要としないため、室内で育てる植物として飾り方の自由度が高く、インテリアグリーンとして人気が高まっています。

 

夏に胡蝶蘭を育てるポイント

ここまでで、胡蝶蘭の生態についてお分かりいただけたかと思います。

気温の高いジャングルで育つ植物ではありますが、ある程度の耐暑性があるといっても、本来生息する場所は木々が生い茂り、適度に木漏れ日があるような半日陰の場所です。

日本の猛暑日では40度以上に及ぶ日もありますから、胡蝶蘭が過ごしやすい気温はゆうに超えてしまいます。ですから日本の夏を乗り切る手助けが必要になります。

胡蝶蘭にとって、夏は生育期にあたる期間でもありますので、夏の間に適したお世話でしっかりと株を育てていき、次の開花期に美しい花が咲くようにお世話していきましょう。

続いてはいよいよ、胡蝶蘭の夏の間の育て方について、具体的な方法をご紹介していきます。

 

屋外で高温にさらさない

先述したように、自生地での胡蝶蘭は樹木の枝などに着生しており、木々の間からやわらかな木漏れ日が差し込む半日陰の場所に身を置いています。

胡蝶蘭にとっての適温は18度から27度くらいだとされており、日本の夏に屋外で管理すると、この適温を上回ってしまいます。なるべく真夏の間は冷房の効いている室内で管理するよう心がけましょう。

胡蝶蘭の根は、あまり湿度が高すぎると根腐れの原因にもなりますので、置き場所は風通しの良い場所が適しています。春や秋には屋外でも管理できる胡蝶蘭は、風通しが良ければ屋外でも30度以上までは耐えられます。

もし屋外で管理する場合には、地面の上に直接鉢を置かず、鉢の下にスノコを敷いたりスツールで地面と距離を空けたり、鉢を吊るして管理したり、水を撒いて鉢周辺の温度を下げるなどの高温対策が必須です。鉢を吊るして管理すると、風通しがさらに良くなり鉢内が蒸れにくくなるというメリットもあります。

また、夏は突然の夕立なども多い時期ですが、雨の日に胡蝶蘭を雨ざらしにしていると根腐れを起こしやすいので、天気予報を見ながら置き場所に注意してみてくださいね。

 

強い日光に注意する

自生地では木漏れ日の中で育つ胡蝶蘭は、強い日光や直射日光には弱い植物です。

室内だから大丈夫だと安心して窓際に置いていると、日光が強すぎて葉焼けを起こす可能性もあります。窓際で鉢を管理する場合には、ブラインド越しやレースカーテン越しに日光が当たるよう調節しましょう。それでも日光が強すぎるなと感じる場合には、ホームセンターなどで販売されている遮光ネットを使用して遮光するのがおすすめです。

夏季は特に西日が強くなる季節ですから、西日が差す窓際などは避けて置いてください。

ただし、日光の当たり具合を気にするあまりに、胡蝶蘭の鉢をあちこち頻繁に移動させていると、環境の変化にストレスを感じて株が元気をなくす原因にもなり得ます。

置き場所はなるべく固定して、カーテンの枚数や遮光ネットなどで日光を調節できるのがベターです。

 

湿度を保つ工夫を

胡蝶蘭は空気中の水分を吸収して育ちますが、夏場などの乾燥した季節は水やりだけではなく、湿度を保つ工夫が必要です。特に室内でエアコンなどを使用している場合には、部屋が乾燥しがちです。

霧吹きなどで胡蝶蘭の葉に水をかける葉水をこまめに行ったり、鉢の周りに霧吹きで水を噴射したりして、湿度を保ちつつ温度の上昇を防ぎましょう。

この葉水は、水やりとあわせて行うことで水不足を防げる他にも、葉の汚れやホコリを落とすことで病害虫を防いだり、光合成を促進するというメリットもあります。

同じくエアコンで室内が乾燥しがちな冬季にも有効な方法なので、お世話のセットに霧吹きを加えておきましょう。

また、涼しい場所で管理しようとしてエアコンの風が直接当たるような場所に置くのは逆効果です。

せっかく蓄えた水分が蒸発して、葉や根が元気をなくしてしまいます。ただし、室内の風通しを良くするという点で、扇風機やサーキュレーターなどでゆるやかな風を送るのはおすすめです。

空調を効かせている間は窓を閉め切っていて風の流れがなくなるため、こうして室内の空気を循環させるのは、人間にも胡蝶蘭にとっても良いことです。

 

夏の胡蝶蘭の水やり

胡蝶蘭は夏に生育期を迎える植物です。そのため、生長のために多くの水分を必要とします。なるべくたくさんお水をあげたいものですが、夏場には水やりをする時間帯に注意が必要です。

夏の間は、いちばん気温が上がる時間帯を避けて水やりをします。

水を与えたあとに気温が上昇すると、水の温度も上昇してしまい、根が傷む原因になります。できれば朝の早い時間帯か、涼しくなって気温が下がってきた夕方に行うと良いでしょう。夕方にひんやりとした水を与えることで、日中に温度の上がった鉢を冷やしてくれます。

水やりの目安としては、鉢に入っている植え込み材に触れてみて、乾燥していたら水やりを行います。

鉢植えではなく板などに着生させて育てている場合は根が乾燥しやすいので、毎日霧吹きなどで水を与えても問題ありません。

 

肥料の与え方

胡蝶蘭は肥料がなくても育つ植物ですが、生育期である夏の間に肥料を与えることで生長を助けることができます。基本的に胡蝶蘭に肥料を与える際には、なるべく濃度を薄めて与えるように注意します。説明書にある以上に薄めて使うくらいがちょうど良い量です。

与える肥料は、市販されている洋ラン用の肥料がおすすめです。液体肥料の場合には、霧吹きなどで水やりを兼ねて与えると良いでしょう。

ただし、開花している間には肥料は不要ですので、開花後に与えるようにしてください。

 

夏に注意したい病気や害虫

湿度や温度が高くなる夏は、害虫や病気も発生しやすい季節です。特に室外で管理している場合は、害虫が発生しやすいので注意が必要になります。

中でも気を付けておきたいのはハダニです。ハダニは、植物に寄生して茎や葉から養分を吸汁します。そのため、大量に発生すると株がどんどん弱ってしまうのです。日頃からこまめに葉を観察して、何か異変があったときには早く気づけるようにしましょう。

 

注意したい病気には、「軟腐病」が挙げられます。軟腐病とは、株の傷口などから菌が侵入してしまい、葉や茎を腐らせていく病気です。腐った部分はブヨブヨと軟らかくなってしまうため、軟腐病と呼ばれます。

軟腐病によって腐った部分は変色する他にも異臭が漂います。軟腐病にかかっている部分の葉などを触ってみると、細菌のつまった水分が飛散します。これが他の植物などにかかると、別の健康な植物も軟腐病に感染する恐れがありますので注意しましょう。

 

病気や害虫を未然に防ぐためには、風通しの良い場所で管理することが重要です。また、こまめに葉水をかけることも害虫対策になります。いずれにせよ、こまめに株の状態を観察して、早く異変に気づけることが大切です。

 

まとめ

今回は、夏場の胡蝶蘭の育て方についてご紹介してきました。

暑さには強い胡蝶蘭ですが、夏のお世話にはいくつか注意点があります。

まずは水やりの頻度と与える時間帯、置き場所の日光の当たり具合、管理温度などが主な注意点です。これらのコツを抑えてお世話すれば、胡蝶蘭を健康に育てることができますよ。

夏に生育期を迎える胡蝶蘭は、この時期にしっかりとお世話をすることで、来年の春には美しい花を咲かせてくれるでしょう。

着生植物である胡蝶蘭は、鉢植え以外にも板や流木などに着生させて育てられます。飾り方のバリエーションが広がることで、インテリアの一部として楽しむこともできますよ。

エレガントな見た目ながらも意外とタフな性質を持っている胡蝶蘭を、日々楽しんで育ててみてくださいね。

 

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